「新銀行東京は免許返上」が当局の落とし所

2010年12月号 BUSINESS

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「次は新銀行東京……」

ある金融庁幹部が耳もとでそっと囁いた。金融庁は水面下で新銀行東京の処理を検討し始めている。

石原慎太郎都知事の肝煎りで誕生した新銀行東京は2005年4月の開業以来、4期連続で最終赤字を呈し、10年3月期にやっとのことで黒字転換を果たした。11年3月期第1四半期決算(10年4~6月)も、何とか黒字を維持したが、その内容は惨憺たるものだ。

06年3月末に5436億円にまで伸びた預金残高は、今6月末現在2170億円。07年3月末に2467億円でピークとなった貸出金残高も同978億円と、6割以上も減少している。

杜撰さが際立っているのは、その預金集めと資産運用だ。05年に全面開業記念「特別金利キャンペーン」で集めた5年物定期預金(年利1%)の満期が6月に到来した。この満期対策として同行が打ち出したのが、やはり「特別金利キャンペーン」。5月からの半年間に限って、年0.
06%だった1年物スーパー定期預金金利を年0.65%に、3年物を年0.08%から年0.8%に引き上げるなど、通常の10倍の金利で預金集めに奔走した。

高金利で預金を掻き集める銀行が危ない――。それが世の常識とはいえ、歴史的な超低金利のご時世、預金は6月末時点で3月末より100億円も増えたという。

ところが、12月には再び年利1.0%の5年物定期の満期が訪れる。さらに、06年に「開業1周年特別金利キャンペーン」と題して年利1.7%で集めた5年物定期の満期も11年5月から到来する。津波のように押し寄せるプレミアム定期の満期に、再び高金利キャンペーンを打って、預金を繋ぎ止めようという考えだろうか。

資金運用もとんでもないことになっている。技術力や将来性に優れた東京の中小企業を支援するために発足した同行の中小企業向け貸し出しは、6月末現在で573億円に減少している。預金残高の26%しか中小企業貸出金に回っていないのだ。これでは、同行の存在意義はない。

では、集めた預金は、どのように運用されているのか。6月末時点で預金残高を超える2517億円が有価証券で運用されている。その中身を見ると、さらに奇妙なことに気がつく。6月末は内訳が開示されていないので、3月末で紹介すると、有価証券運用額は2599億円で、このうち5割強の1354億円が国債で、3割5分強の939億円が社債で運用されているのだ。

高金利で集めた預金でせっせと債券を購入して運用し、さらに、「預金の減少を補うために、購入した債券を担保にして日銀のオペで資金を調達する」(同行関係者)という「投資銀行まがいの手口」が浮かび上がる。金融庁が「同行の役目は終わった」と引導を渡すのも当然だろう。

むしろ、「資産はあるのだから、預金者、貸出先などに迷惑のかからないうちに銀行免許を返上して、清算するべき」と、金融庁関係者はホンネを漏らす。「合併や資産売却を行おうにも、引き受け手が見つからない」(同)という。

それもそのはず、同行は都内の4信金から保証業務に関する保証金の不払い訴訟を起こされ、金融界の信用はガタ落ち。元行員からも損害賠償請求訴訟を起こされている。

冒頭の金融庁幹部がつぶやく。「問題は石原さんなんだよね。来年4月の都知事選で、都知事が交代したら、遠慮なく新銀行東京の処理に取りかかれる。万一、石原さんが出馬、再選でもしたら、事実上の『石原銀行』を取り潰せるだろうか」

懸案の日本振興銀行に、ペイオフという「伝家の宝刀」を抜いた金融庁。日本振興銀行の次は新銀行東京の処理が既定路線だが、「ペイオフではなく銀行免許の自主返上」というソフトランディングに向けて、どんなシナリオを描くのか。

   

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