2010年12月号 DEEP [ディープ・インサイド]
人気のお笑い芸人が数多く所属する芸能事務所「プロダクション人力舎」が東京国税局の税務調査を受けている。それも通常の調査ではなく、悪質性の高い脱税を摘発する査察部、通称マルサの強制調査なのだという。
人力舎はお笑いタレントのマネジャーを務めていた玉川善治氏が1977年に設立。かつては柄本明や高田純次らの「東京乾電池」、大竹まことらの「シティボーイズ」、さらには竹中直人と、今や個性派俳優として知られる面々が所属し、現在は「アンジャッシュ」「アンタッチャブル」「おぎやはぎ」などバラエティー番組常連の若手芸人を多数抱える有力事務所だ。
また、お笑い専門学校「スクールJCA」を傘下に持ち、将来性のあるグループを人力舎の所属に昇格させるなど、若手芸人の人材育成にも力を入れており、お笑い界では「西の吉本興業、東の人力舎」とまで呼ばれる存在感を示している。
その人力舎に査察が入ったのは今年2月下旬のこと。芸人に対する報酬を実際より多く支払ったことにして経費を水増しするなど手口は悪質で、査察部は社長の玉川氏のほか、スクールJCAの小川祥二校長らからも聴取を続けていたという。
ところが脱税容疑の実行行為者だった玉川社長が6月に突如死亡したことから(会社側の公式発表は「クモ膜下出血」)、脱税容疑による東京地検への刑事告発は見送られ、所轄の税務署による追徴課税のみに切り替えられる模様だ。所得隠し額は3年間で2億円を超え、追徴税額は重加算税を含めて約1億円にのぼるという。
ある芸能界の事情通は「今年春には人気グループ『EXILE』が所属する芸能事務所『LDH』が所得隠しを指摘されたが、マルサの標的にされた人力舎の場合、さらに悪質と判断されたのでは」と分析する。
この事情通によると、人力舎などお笑い系の芸能事務所の多くで、芸人に支払った給料の明細書などは「信頼関係」の名の下に渡されることはなく、芸人は自分の収入が実際はいくらなのか把握できないケースがほとんどだという。何をかいわんやだ。
「人力舎に対するマルサの強制調査で、東京国税局は杜撰な経理をしているお笑い系芸能事務所への一罰百戒の効果を狙っていたはず。それだけに玉川社長の急死は、国税当局にとって悔やんでも悔やみきれない事態だったのではないか」と事情通は話す。