「安倍が森を追い払う」自民党の世代間闘争

2010年10月号 POLITICS

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「政権を奪還した暁(あかつき)には自民党を背負う、次世代のリーダーに入ってもらった」

民主党代表選の投票日目前の9月9日夕、自民党本部で会見した谷垣禎一総裁(65)は上気した表情でこう語った。キーワードは「世代交代」。幹事長に石原伸晃氏(53)、総務会長には女性初の三役となる小池百合子氏(58)を起用、留任する石破茂政調会長(53)を含めてオール50代で新執行部を固めた。「ニュー自民」をアピールする狙いは明白だが、谷垣氏は、昨年9月の総裁選で、党内主要派閥の町村、額賀、古賀3派の領袖らの支持を受けて総裁に就任している。それだけに前幹事長、大島理森氏を副総裁に処遇したのは「旧世代」への配慮だ。そこからは、新旧世代に挟まれた谷垣総裁の苦しい立場も浮かんでくる。

石原氏の「清新さ」と、参院選で自民党に勝利をもたらした大島氏の「功績」。谷垣氏はこれらを折衷して「党内融和」を図ろうとしているが、現実はそれほど甘くない。むしろ世代間抗争による自民党内の亀裂は確実に深まっているのだ。

脱派閥を掲げる「改革派」の一人である中堅議員は言う。「大島氏が副総裁として、実権を握るなら看過できない」。それは「大島院政」への警戒感である。一方、旧世代は旧世代で、今回の三役人事について「若いだけでは何もできないだろう」(幹事長経験者)と牽制する。

こうした新旧対立の震源地となっているのが最大派閥の町村派だ。

「小泉政権以来、どれだけ派閥運営に苦労したと思っているのか。もう面倒見切れないぞ」

9月2日昼すぎ。国会近くのホテルの一室で開かれた派の幹部会で、派閥オーナーである森喜朗元首相は声を荒らげ、退会届を机の上に置いてその場を後にした。森氏が激昂したのは、8月の党参院議員会長選で町村派の谷川秀善前参院幹事長が落選したからだった。

当初、額賀派と古賀派の支援も受けた谷川氏の勝利は動かないと見られていた。ところが、町村派からは、対抗馬の中曽根弘文氏の推薦人として世耕弘成元首相補佐官ら5人が名を連ね、さらに町村派の4、5人が、谷川支持の方針に反旗を翻し、中曽根支持に回ったため、得票数は「40対40」となり、結局くじ引きの末、中曽根氏の当選が決まった。

「町村派は派閥の体をなしていない」︱︱。額賀、古賀両派から、こんな声が上がり、幹部会で森氏は「オレは(両派に)顔向けができないじゃないか」と激しく怒った。

谷川氏擁立のため森氏は、議員引退後もなお額賀派内で影響力を持つ青木幹雄元参院議員会長や、古賀派の古賀誠会長と繰り返し会談していた。谷川氏を傀儡として参院を牛耳る魂胆だったわけだ。しかし、森氏が単に、谷川氏の落選で恥をかかされたことへの恨みを爆発させたと見るのは早計すぎる。むしろ、2日の幹部会に出席していた安倍晋三元首相への当てつけだろう。なぜなら、安倍氏は実弟の岸信夫参院議員を通じて、町村派内の造反の動きを公然と支持していたからだ。

そんな安倍氏の真意は、どこにあるのか。周辺は「安倍さんは町村派の『森支配』を終わらせる好機と踏んだんだ」と解説する。無論、安倍氏は腹の内を明かそうとしないが、今回の造反支援によって安倍氏が「町村派の最高実力者である森氏を追い出し、自ら実権を握って政界中枢に復帰することを狙っている」(町村派議員)ことが明らかになった。

森vs安倍の代理戦争の様相を呈した参院議員会長選は、新世代側の安倍氏に軍配が上がったが、今回の党役員人事で谷垣氏が新旧世代のバランスを重視したことに、中曽根氏を推した陣営は「勝負はこれから」(中堅議員)と警戒する。

安倍氏は最近、民主党との大連立について問われると、「未曾有の経済危機の中で、(両党は)協力しなければならない」と答える。政界では、安倍氏と民主党代表選に敗れた小沢一郎氏との連携が囁かれており、その発言には意味深な響きがある。

一方、参院自民党執行部入りした山本一太、世耕両氏ら「改革派」からは「次の目標は『谷垣降ろし』だ」という囁きが漏れる。遠からず新旧世代の裂け目からマグマが噴き出しそうである。

   

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