「4代目マーチ」でトヨタを追い抜く日産

2010年9月号 BUSINESS

  • はてなブックマークに追加

日産自動車のカルロス・ゴーン社長がグローバル・ローコスト経営の先頭を走っている。7月に国内発売を開始した4代目「マーチ」はタイから輸入する。生産は追浜工場からタイに移した。日本の自動車メーカーが量産車を海外拠点から輸入するのは初めてだ。最廉価車種は99万9600円と100万円を切る。さらに「マーチ」に採用した「Vプラットホーム」を使って全世界で年間100万台を生産する計画だ。インド、中国、メキシコで生産し、世界160カ国で販売する。

タイ工場での現地部品調達率は95%。内訳はタイ85%、中国とインドで10%と、グローバル調達を徹底させた。エンジンは4気筒から3気筒に小型化。燃費効率もガソリン1リットル=約26キロとガソリン車ではトップクラスだ。タイで同国初の「エコカー」に認定された。

日産再建期にゴーン氏はNKK(現JFE)からの鋼板調達を減らして新日本製鉄に切り替え、大幅なコスト削減に成功した。今回の「マーチ」でも、車体に使う「ハイテン材」(高張力鋼板)を日本から輸入するとコスト高になるため、現地調達する方策を見出した。日産ではどの車種をどこで生産するかを決める「社内入札」のようなルールがあり、コストダウンを徹底している。ゴーン氏は常に厳しい。タイの事業強化をめぐっては、現地法人の出資比率を高める条件として、合弁相手の財閥企業オーナーが経営に干渉しないことを要求。先方はいったん条件を呑んだが調印直前に「経営に残りたい」とごね出した。タイに出向いていたゴーン氏は「会談をドタキャンして引き返した」(日産関係者)。

決算を見ても日産は好調だ。11年3月期の第1四半期の中国での販売台数は、前年同期比68.2%増の24万3千台。同時期の中国市場は69・5%伸びており、キャッチアップに成功している。それに比べてトヨタ自動車は18%増の18万6千台。伸び率、台数ともに日産に後れを取る。

日産は「マーチ」を中国の広州工場で生産し、中国各地で販売する。価格は7万元(約91万円)。この値段には重要な意味がある。中国では5万~7万元の小型車が売れ筋。この「激戦区」で日産は勝負しようとしている。これまで日本車の最低価格は約10万元。高値が原因でシェアは低落傾向にある。トヨタ幹部は「中国でもいずれ高級車が売れ出す。今は低価格車を買っている客の収入が増えて高級車に手を出し始めるからだ。日本の高度成長期に『いつかはクラウン』と宣伝して売ったのと同じ。このままでは日産にトヨタはボロ負けする」と危機感を隠さない。

この第1四半期の日産の売上高は35.3%増の2兆501億円、営業利益は14.4倍の1679億円。トヨタの売上高は27%増の4兆8718億円。営業損益は、前年同期の1948億円の赤字から2116億円の黒字に転換したが、この営業利益には金融事業での貸倒引当金を前期に多めに積んでいた分が戻ってきた約500億円が含まれ、実質的な営業利益は1616億円だ。売上高がトヨタの半分の日産が、営業利益でトヨタを実質的に追い抜いたことになる。一方、ホンダの売上高は17・9%増の2兆3614億円、営業利益は9・3倍の2344億円。日産はホンダに引けを取らない。

日産がトヨタに勝ったのは、国内事業と北米事業の収益力の差だ。第1四半期の国内事業を比較すると、日産は売上高1兆431億円、営業利益433億円で、営業利益率4・2%。トヨタは売上高2兆8066億円、営業利益274億円で、営業利益率は1%にすぎなかった。北米事業では、日産は売上高7749億円、営業利益668億円で営業利益率は8.6%。トヨタは売上高1兆4836億円、営業利益1097億円、営業利益率7.4%。いずれも日産に軍配が上がる。

日産は高コストの日本での生産を減らし、新興国を軸にした生産・調達を加速させたが、雇用重視のトヨタは国内工場の再編が遅れている。日産は国内販売網を削減したがトヨタは統廃合が進まない。北米事業でも、リーマン・ショック後、ゴーン社長が大型ピックアップトラックで稼ぐ戦略を猛スピードで軌道修正して生産を中止した。グローバル経営では日産がトヨタより一枚上手だ。

   

  • はてなブックマークに追加