編集後記

2010年9月号 連載
by A

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これを調査報道ジャーナリズムと呼ぶべきだろうか。アフガニスタン駐留米軍の機密文書7万5千点をインターネットで暴露した内部告発サイト「ウィキリークス」に対し、「新味に乏しい情報が吟味されないまま垂れ流されたことに加え、兵士や国民の生命が危険にさらされかねない」との怒りが沸騰していると、産経新聞ワシントン特派員が伝えた。

▼アホか。現地紙を転電するだけの「ヨコタテ特派員」にこんなことを言われたくない。この記事自体、米国政府の弁解や非難声明の寄せ集めだ。恥ずかしくないの? そりゃあ、孫引き記者は人畜無害の記事しか書けないだろうさ。スクープとは本来、危険な匂いに満ちているものだ。ゲーツ国防長官はFBIに捜査を依頼したというが、所詮は情報管理のドジを棚に上げた話だろう。

▼機密文書の中身はまさに素材であって、整序されたインテリジェンスではない。吟味は読む側に託される。少なくとも私には、戦場の息苦しさ、果てしないアフガンの泥沼が体感できる出色のドキュメントだった。「ウィキリークス」主宰者のオーストラリア人元ハッカー(39)がいかなる人物かは知らない。グアンタナモ収容所マニュアルや、クライメートゲートの発端となった英国の大学メールの暴露で、愚劣なネオコンやエコ規制論者を黙らせた功績は大きかった。秘密を暴かれた権力の泣き言など、耳を貸すに値しない。

▼と考えていたら、イラク侵攻時に従軍報道を認める「エンベッド(埋め込み)取材」を始めたペンタゴンの元報道官ビクトリア・クラーク(51)が「できるだけ多くの情報を発信して、自分たちのゴールを達成する」と語る記事に遭遇した(朝日新聞「人・脈・記」)。情報洪水でメディアを支配するという魂胆か、やっぱりね。では、対抗して「FACTAリークス」でも始めますか。

   

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