2010年4月号 BUSINESS
信用不安が囁かれていた大証ヘラクレス上場の不動産ファンド会社ダヴィンチ・ホールディングスが最終局面を迎えている。2月19日に発表した2009年12月期連結決算で110億円の債務超過に転落。当面の資金繰りのヤマとされていたBNPパリバ系投資会社からの220億円の融資の返済期限(3月14日)については6カ月の延長で合意を取りつけたものの、この合意には3月30日を最終期限とするシンジケートローン(主幹事は三菱東京UFJ銀行)の返済期限延長など6項目の条件が付いた。
要するにパリバは「あちらが待つなら、こちらも待つ」と自己判断を回避した形。アーバンコーポレイション(08年に民事再生法申請)の資金調達に絡む金融庁への虚偽報告など日本で不祥事が相次いでいるパリバにとって「国内不動産ファンド最大手の倒産の引き金はひきたくない」との思惑が働いたと見る向きもある。信用調査機関などは「ダヴィンチの破綻は不可避」としているが、不動産市場のパニックを恐れる金融当局やメガバンクなどが動いて「破綻回避とはいかないまでも、生かさず殺さずの『塩漬け』にする可能性はある」(業界関係者)。
ダヴィンチの総資産は1兆1287億円(08年12月期)から6588億円(09年12月期)へと、この1年で激減した。主力物件だった「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」(略称PCP丸の内、東京・千代田区、取得価格2千億円=オフィス部分のみ)がローンの借り換え不能でデフォルト(債務不履行)となり、債権者に明け渡したほか、評価減となった物件が続出した結果だ。
とはいえ、同社にはまだ「芝パークビル」(東京・港区、1430億円)「国際赤坂ビル」(同、1千億円)「虎ノ門パストラル」(同、2300億円=森トラストと共同)といった都心一等地の大型ビルがある。仮にダヴィンチが破綻に追い込まれた場合、「東京の不動産マーケット崩壊の象徴として世界で報じられ、ただでさえ脆弱なJ─REIT(日本版不動産投資信託)をはじめとするオフィスビル市場の底割れを招くのではないか」と大手不動産幹部は警戒する。
加えて懸念されるのが金融機関への影響だ。メガバンクから地銀まで不動産ノンリコースローンの融資をはじめ、CMBS(商業用不動産ローン担保証券)やJ─REITの保有などを通じて不動産ビジネスにどっぷり浸かっている。リーマン・ショック後の不況で沈滞している企業の資金需要には回復の兆しがなく、資金の運用先に苦悩する邦銀にとって、不動産市況のさらなる悪化は投融資の不調だけでなく、一般融資の担保の目減りといった形でボディーブローのように効いてくる。
「ダヴィンチ・ショックはパンドラの箱を開けることになる」(金融関係者)との懸念から「法的整理のような明確な破綻は避けるべき」との声が金融当局の周辺から上がっている。こうした事情が、ダヴィンチ関連の融資返済期限の延長にできる限り応じて、塩漬けの形で問題を先送りにする動きに結びついている。
前述のPCP丸の内はダヴィンチが手放した後、東証1部上場の外資系不動産ファンド会社セキュアード・キャピタル・ジャパンが買収したが、本誌2月号(「新生銀行『焼け石に水』の弥縫策」)で詳報したように、これは内外の金融機関がタッグを組んだ「損失飛ばし」の疑いが濃厚。PCP丸の内の相場は900億~1200億円と見られていたにもかかわらず、セキュアードの買い値は1400億円の高値だった。
「本来なら価格調整が行われ、下がった相場が次の投資を生むのに、相も変わらぬ国内金融の先送り体質が正常な循環を阻害している」と不動産担当の証券アナリストは指摘する。バブル経済が弾けた1990年から今年で丸20年。「失われた15年」の間に身をもって体験した損失飛ばしの愚行を、日本の金融機関は繰り返すつもりなのか。