チリ大地震、「カルメネール」ワインなど打撃

2010年4月号 GLOBAL
by 北野浩一(チリ・カトリカ大学客員研究員)

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2月27日、チリ中南部をマグニチュード8.8の大地震が襲った。人的物的被害もさることながら、これから表面化してくる経済的ダメージはどこまで及ぶのだろうか。

中南部は輸出用の農林水産業が集中している地域だ。なかでも、震源に近く建物被害が大きかったコンセプシオン市近辺は、紙・パルプなどの林業と水産業、タルカ市は果物やワインの主要生産地である。

この地域の植林は、1世紀前にコンセプシオン近郊の炭鉱用坑木として始まった。ラジアタ松やユーカリなどを中心とする植林地は中南部の海岸山脈を中心に広がっており、日系企業も20年前から進出している。製材所やパルプ・製紙工場は、植林地に隣接して建設されている。

水産業もアジやアンチョビなどを原料とする魚粉加工工場が、コンセプシオンの海側にあるタルカウアノに集中している。家畜飼料として日本にも輸入されている魚粉は企業経営による大規模漁業が中心で、水揚げ港近くには大型の加工工場が立ち並んでいる。

一方、タルカの周辺は、輸出用果物やワイン用ブドウなどの生産地。チリの地元企業だけでなく、ドールやデルモンテといった多国籍大企業が進出している。チリワイン好きなら「チリだけに残された幻の品種」としてプロモーションされている「カルメネール」種の名を聞いたことがあるだろう。その赤ワイン産地のメッカがこの一帯なのだ。

地震はこれらの産業に大打撃を与えた。被害は三つに大別される。第一に激しい揺れと津波による工場損壊や製品損傷、第二に停電や停水による操業停止という間接被害、第三に国土を南北に結ぶ幹線道路が寸断された輸送停滞による被害である。

津波で壊滅的な被害を受けたのは、パルプのコンスティトゥシオン工場、魚粉のコロネル・タルカウアノ工場など。停電・停水で林業、水産業も地震後1カ月間の操業停止を決めている。影響は果物にも及び、収穫期にあたるリンゴ、ナシ、梅、キウイの落下破傷や滞貨で50~40%が廃棄処分などの憂き目を見そうだ。

ワインはブドウの収穫がまだ始まっておらず、生産への影響は軽微にとどまった。だが、ヴィンテージ物などの貯蔵分1億2500万リットル(約2億5千万ドル相当)が破損などで失われたという。

チリは世界最大の産銅国だが、「カッパーベルト」と呼ばれる大鉱山のある地域は、首都サンチャゴの北方で震源から遠い。ロンドン銅相場は供給懸念から一時急騰したが、操業再開で3月6日には騰勢が緩んだ。

前大統領ミチェル・バチェレの中道左派政権は高い支持率を誇ったが、政権の最後になって政府機関の連携の悪さや軍の導入のタイミングを誤るなど、危機管理能力の弱さを露呈 した。地震発生から2週間後に政権を引き継いだ中道右派のセバスティアン・ピニェイラ大統領は、被災者の生活支援や住宅の復興などが急務である。一方で治安維持の強化や企業復興支援への期待が高まっており、政権には追い風になるとみられる。

著者プロフィール

北野浩一

チリ・カトリカ大学客員研究員

   

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