毎日新聞が「脱発表ジャーナリズム」に活路

2010年3月号 BUSINESS

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「変わらずに生き残るためには、変わらなければならない」

毎日新聞社の朝比奈豊社長は、社員への年頭挨拶で、ヴィスコンティ監督の映画『山猫』の名セリフを拝借し「チェンジ」を求めた。国内で最も古い、創刊138年を迎えた新聞社は衰退する業界の中で、どう変わろうというのか。

チェンジの大きな柱は、4月からの共同通信加盟と地方紙との提携。朝比奈社長は挨拶の中で「売り上げが縮む中で組織のスリム化は避けられない。だからこそ、貴重な記者のエネルギーを独自の取材に集中させたい」と提携の趣旨を説明した。

昨年11月の提携発表では「脱発表ジャーナリズム」という言葉を使い、中央省庁や各地方自治体、企業などの発表記事は共同通信や地方紙の記者に任せ、毎日の記者にしかできない特ダネ、調査報道、付加価値の高い解説、検証記事などを書いていくと宣言している。

同社関係者の話では、今年の新規採用は昨年の半分以下の二十数人に絞り、定年などで退職する約100人分が減員となる。これを10年続ければ、現在約2800人の社員は約1800人となり、地方支局の大幅なリストラをしなくても、組織のスリム化は進むとみている。

「必要な記者会見には出るので、一部を除き記者クラブを抜けることはないが、『会社員記者』から『毎日ジャーナリスト』になれと言っている。他社に先駆けて記事に署名を入れているので、名前で勝負できる記者を多く育てていきたい。フットワークが悪く、発表しか書けないような記者は次第に編集局からいなくなるだろう」と、ある幹部は話す。

この記者が書く記事を読みたいという読者が増えれば、インターネットでの課金にも道が開けると考えているのだ。

肝心の地方紙との提携はどうなっているのか。4月以降、関連会社の下野新聞(栃木県)や福島民報のほか、北國新聞(石川県)など十数社から、県庁所在地以外の市町村のニュース記事などを配信してもらう予定だ。さらに山形新聞、熊本日日新聞などとも交渉を進め、提携先は20社程度にしたいと意気込む。

地方紙側のメリットは、▽提供記事の代金、▽毎日からニュース解説や岩見隆夫氏などのコラム、「毎日小学生新聞」の記事などをもらう、▽全国高校総体などのスポーツや囲碁、美術展、書道展などの事業の共催、▽新聞印刷の委託――といったところ。実は、毎日小学生新聞は28カ月連続で部数が増え続け、部数減が常識の中で特異な存在だが、毎日の記者が小学校などで「出前授業」を行っていることが効いているらしい。地方紙側からコンテンツ提供の依頼が多い人気媒体になっている。

また、延べ5万人が受検している「ニュース時事能力検定」は、すでに35の地方紙・地方放送局と共催し、提携のモデルになっている。

毎日は経費を削減して共同通信に支払う分担金を捻出するため、共同通信との取材ヘリの共用を目指しているが、搭乗する両社のカメラマンが「特ダネの現場撮影のときに困る」などと抵抗し、難航している。

毎日のチェンジを象徴するもう一つの取り組みは、TSUTAYAなどを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との提携。CCCのTカードを持つ約3400万人の6~7割は、新聞から縁遠い20代、30代だ。朝比奈社長は前述の挨拶で「提携を生かした取り組みを今年から始める。販売現場でも知恵を出すことで生かせるものになる」と意欲的に語っている。

このほか、毎日は米アマゾンの電子ブックリーダー「キンドル」への英文記事配信やネット向け電子新聞の実証実験、東京本社1階に「MOTTAINAIステーション&ショップ」を設けるなどした環境キャンペーンも続けていくという。

さらに、同社関係者は「次の改革は夕刊廃止。北海道で夕刊をやめたが、健闘している。今後は質の高い朝刊が基本になる」と目標を語る。

毎日の売り上げは、05年3月期から09年3月期までの4年間で200億円近く減った。09年3月期には約27億円の赤字を出し、尻に火がついた状況に変わりはない。反転攻勢はなるか。その取り組みの成否が注目される。

   

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