メディア対政治という「言葉の格闘技」

映画 『フロスト×ニクソン』

2009年5月号 連載 [IMAGE Review]
by 石

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映画 『フロスト×ニクソン』

映画 『フロスト×ニクソン』(新宿武蔵野館ほか全国でロードショー[配給/東宝東和])

監督:ロン・ハワード/出演:マイケル・シーン、ランク・ランジェラほか

『フロスト×ニクソン』。映画のタイトル、それも邦題としては、あまりに説明不足で、大半の観客は何を意味するのか、どんな映画なのか想像もできないだろう。格闘技ファンならフロスト対ニクソンの対戦カードと考え、「それにしても、知らない選手だな」と首をかしげるかもしれない。だが、それが正解なのだ。

格闘技ファンになじみのないのは当然。デビッド・フロストはイギリスの人気司会者。対するニクソンはウォーターゲート事件で、米史上初めて任期途中で辞任した大統領、あのリチャード・ニクソンである。片や、米テレビ界進出の野心を抱きながら、コメディアン上がりで政治の知識には乏しい軽量級の挑戦者、片や、この対戦で政界復帰を目論む老練な元チャンピオン。二人がテレビというメディアをリングに、インタビューという言葉の応酬で決着をつける格闘技映画と思って間違いない。

ウォーターゲート事件でニクソンが辞任してから3年後の1977年、アメリカで彼がフロストのインタビューに答えるテレビ番組が放映された。長時間のインタビューで、ニクソンは在任中認めなかった大統領の不法行為を告白、全米4500万人もの視聴者を釘付けにしたという。

このインタビューはイギリスで舞台劇となり、ブロードウエイでも上演された。これに目を付けた『ダ・ヴィンチ・コード』のロン・ハワード監督が映画化したのが、今回の作品である。

ニクソン辞任への世界的関心に注目したフロストは、この大物をテレビに引っ張り出すことを思いつき、インタビューを申し込む。ニクソンも法外な出演料に加え、コメディアン上がりの扱いやすい相手とみて申し出に応じる。

フロストはウォーターゲート事件を追及するジャーナリストらをチームに引き入れ、ニクソンも側近と対策を練る。それぞれのスタッフをセコンド役にテレビというリングに上がった二人は、4回のディベート戦を開始する。フロストは相手との約束を無視して質問を浴びせ、ベトナム戦争の責任を追及するなど攻め立てるが、老練なニクソンは巧みにパンチをかわして滔々と自説を展開、上機嫌で引き揚げていく。

3ラウンドまではニクソンの圧勝。後悔で頭を抱えるフロストに、深夜ニクソンから電話がかかる。「スポットライトは我々の一人しか照らさない」。挑発されて奮起したフロストは改めて懸命に資料を読みふけり、大統領の犯罪を裏付ける証拠探しに没頭、最終ラウンドに立ち向かう。

攻守所を変えた最終インタビューが映画のクライマックス。自信たっぷり、傲岸不遜なニクソン、最後に追いつめられ呆然とした表情に脂汗をにじませる大写しのニクソン。本物に似ないフランク・ランジェラが、ニクソンが乗り移ったような迫真の好演を見せる。

メディアと政治という扱いにくいテーマを、まるで『ロッキー』を見るように手に汗握るドラマに仕立て上げた脚本(ピーター・モーガン)も見事。のらりくらりの政治家と、つっこみの甘い記者のやりとりが当たり前の日本では、つくりたくてもつくれない映画だろう。

   

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