変革の時代を旅した革命家の真情

映画『チェ 28歳の革命』 『チェ 39歳 別れの手紙』

2009年3月号 連載 [IMAGE Review]
by 石

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映画『チェ 28歳の革命』 『チェ 39歳 別れの手紙』

映画『チェ 28歳の革命』 『チェ 39歳 別れの手紙』(新宿・シネマスクエアとうきゅうほか全国でロードショー)

監督:スティーヴン・ソダーバーグ/出演:ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチルほか/配給:ギャガ・コミュニケーションズ 日活

「変革」を掲げて、オバマ氏がアメリカ初の黒人大統領に就任した今年1月は、偶然にも、アメリカのノド元に共産国家というトゲを突き立てたキューバ革命の50周年にあたる。

1956年、八十数人の同志とヨットでキューバに向かい、革命運動を率いたフィデル・カストロは既に一線から退いている。だが、59年1月の革命成就後、工業相などを務めながら、カストロに別れの手紙を残し、新たにボリビアでの革命活動中に死んだエルネスト・ゲバラは、未だに世界中の反体制活動家や若者のヒーローである。

チェの愛称で親しまれるゲバラが、革命50周年に合わせて久々にスクリーンに蘇ったのが、スティーヴン・ソダーバーグ監督の新作。革命運動さなかのゲバラを描き、前編『チェ 28歳の革命』、後編
『チェ 39歳別れの手紙』と、上映時間合わせて4時間25分に及ぶ2部作になっている。

前編は南米を渡り歩くアルゼンチンの医師ゲバラとカストロの出会いから、キューバ上陸、サンタクララ攻略、ハバナへの進軍まで。持病の喘息に悩みながら、統率力を買われて第2軍の司令官になるゲバラの農民や若い兵士に接する優しさ、裏切り者に対する容赦のない厳しさを描く。

記者のインタビューに、「真の革命家は偉大なる愛によって得られる。人間への愛、正義への愛、真実への愛」と答える場面があるが、この発言が映画のテーマにもなっている。

そのせいか、前編はゲバラを真の革命家として持ち上げすぎの嫌いがあり、いかにも作り物の印象が残る。戦闘シーンなどより、モノクロで挿入される国連での演説シーンの方が遙かにリアリティーを感じさせるのだ。

プロダクションノートによれば、当初は後編だけをつくるつもりだったという。だがボリビア行きの動機を説明するため、国連演説などを加え、その結果2部作になったそうだ。前編の弱さもそのへんに原因がありそうだ。

後編はボリビアに入ってから、政府軍に捉えられ銃殺されるまでの1年ほど。ここでもゲバラの「人間・正義・真実への愛」は変わらないが、ボリビア共産党に協力を拒絶され、「キューバの侵略」との政府宣伝に乗った農民も味方にはならず、徐々に追いつめられていくゲバラの孤立感を、主演のベニチオ・デル・トロが巧みに演じている。

仕事の都合で前編を大阪で、後編を東京の映画館で見たが、どちらも若い世代より団塊世代前後の中年の観客が目立った。ゲバラを同時代史の革命家として知る中年世代は、60年、70年安保時代への郷愁とオーバーラップして眺めたのではないか。

だが、外国人としてキューバ革命に参画し、成功の報酬を振り捨てて、再びアフリカや南米の革命の現場に飛び込んでいったゲバラの真情は、彼を知らない若い世代にこそ映画で知ってもらいたい。変革が求められる閉塞の時代。学生時代から広く南米を旅し、現実の世界を肌で感じたゲバラの行動力が、いまの日本の若い人たちには、もっとも欠けていると思うから。

   

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