2009年3月号 GLOBAL [グローバル・インサイド]
独裁イメージもあって、世界から孤立していると思いがちな北朝鮮だが、いま、平壌市内は多くの外国人で賑わっている。中心は欧州や中東からの投資家、ビジネスマンたちだ。「北京と平壌を結ぶ高麗航空便は満席が続いている。ここ1~2年、欧米からの旅客をよく見かけた」と昨年末、北朝鮮から帰国した在日朝鮮人も証言する。
昨年、携帯電話の解禁を発表した金正日政権だが、その通信インフラを担ったのはエジプトの建設大手、オラスコムグループ傘下にあるオラスコム・テレコム社だった。オラスコムは約4億ドルを投資し、今後25年間、北朝鮮国内で携帯事業を手がけるという。オラスコムはまた、金正日総書記が名誉支配人を務める北朝鮮屈指のセメント企業、サンウォンセメントにも1億1500万ドルを出資し、生産に着手している。
実はこのオラスコムは、世界トップのセメントメジャーである仏ラファージュの100%子会社。ラファージュには鉱山開発大手の仏イメリスが関連会社を通じて大口の出資をしている。つまり、エジプトの企業経由で、フランスの大企業が北朝鮮へ多額の投資をしているという構図だ。
イギリスも対北朝鮮投資に熱心で、すでにアングロ・シノ・キャピタルが5千万ドルの北朝鮮向け投資ファンドを設立したほか、耐火レンガ大手のオリンド社も北朝鮮と合弁でマグネサイト鉱の採掘に乗り出している。
欧州企業の狙いはレアメタルやウランなど、北朝鮮の鉱物資源だ。在日韓国大使館筋の説明では、「07年11月に韓国の南北交流協力支援協会が北朝鮮の地下資源約200種の埋蔵予測額を約438兆円と公表した。アメリカが北朝鮮をテロ支援国指定から解除したこともあって、仏英伊、UAE(アラブ首長国連邦)といったアラブ諸国までもが先を争うように、北朝鮮へと進出している。アメリカも北朝鮮のウラン資源を虎視眈々と狙っている」。
ある自民党関係者は焦りを隠さない。
「07年の日朝貿易額はわずか930万ドル。北朝鮮の地下資源をめぐる国際争奪戦で、日本は完全にカヤの外。対北経済制裁を発動して身動きが取れない。拉致問題が長引けば、対北ビジネスで日本の孤立はさらに深まる。平壌宣言で日本は北朝鮮に経済援助を約束したが、額は80億~120億ドル前後。資金が地下資源の開発に回される可能性は高い。このままでは日本はカネを出すだけ。肝心のレアメタル利権は欧米や中韓にさらわれる」
ただ、日本勢にも対北進出のとっかかりを確保した企業がないわけではない。首相の実弟が社長を務める麻生セメントだ。前出のラファージュと資本提携(出資比率は麻生60%、ラファージュ40%)し、04年には麻生ラファージュセメントと社名まで変更している。つまり、麻生セメントはラファージュを通じ、北朝鮮のサンウォンセメントと共通の利害関係にあるわけだ。