2009年3月号 POLITICS [ポリティクス・インサイド]
大阪府の橋下徹知事がいよいよ正念場を迎える。これまではパフォーマンス中心だったが、橋本府政のもとで初めて本格的に予算を審議する府議会が2月24日に始まるからだ。最大の焦点は大阪府庁舎の移転問題である。
橋下知事が移転先として掲げるのは、大阪市の第三セクターが運営する「WTC(大阪ワールドトレードセンタービルディング)」。大阪湾の臨海埋立地にそびえたつ地上256メートルの西日本一の高さを誇るビルだが、周辺の開発は遅れ、テナントの入居も進まない。巨額の債務を抱え、04年には特定調停を申請して経営破綻した。しかし、再建計画は一向に進まず、2度目の破綻も間近とみられ、「同市最大の不良債権」と言われる。
橋下知事はこれを買い取って新府庁舎にする方針だ。しかし、府議会は一昨年、現在の庁舎を耐震補強することで合意しているうえ、WTCは臨海部でアクセスが悪く、防災上にも難点があることから、自民・公明の与党内部からも猛反発の声が上がっている。これに対し橋下知事は移転プロジェクトチームを立ち上げ、自ら職員に「この庁舎には歴代知事の怨念がこもっている。ここを出て城替えをしたい」と檄を飛ばしたという。府庁舎跡地を売却すれば、財源が捻出できると、橋本知事は考えているようだ。
府議会のある議員は「拙速すぎるし、なぜそこまでWTCに知事がこだわるのか理解できない」と困惑気味だ。その一方で、売却して少しでも不良債権額を減らしたい大阪市は、何とか大阪府に押し付けようと平松邦夫市長自ら橋下知事にすり寄って「トップ営業」を繰り広げている。
大阪府の鑑定では買い取り価格95億円、大阪市の鑑定では153億円と、当初は開きがあったが、99億円で合意した。ただ、移転するには府議会の3分の2以上の賛成による条例改正が必要となるが、与党内部からも批判が相次いでいることから常識的には条例改正は厳しい状況だ。当初は売却に積極的だった大阪市でも、退去の引っ越し費用が40億円もかかることが分かると、売却メリットが少ないとの慎重な意見も出始めた。
最近の世論調査では橋下知事の支持率は80%を超えている。府議会内には「高い支持率をちらつかせ、議会を抵抗勢力に仕立てれば、議会もどこまで反対できるかは微妙だ」との声もあり、困惑を隠しきれない。
事実、橋下知事が「移転に反対なら予算案を否決して不信任案を出してもらってもかまわない」と言ったという話も漏れ伝わる。
こうした動きを受けて、自民党の若手議員らを中心に橋下知事に同調する動きも出てきたほか、反発していた公明党も揺らぎ始めているという。いずれにしても議会が「ノー」と言えば、橋下知事がどう出るのか。自らの思い通りにならないとなると一気にキレるタイプだけに議会側も対応を読み切れないのが実情だ。
もうひとつ今回の予算審議で注目されるのは、国直轄事業の大阪府の負担金支払い拒否を、橋下知事が公然とぶち上げている点だ。
深刻な財政危機に陥っている府では、来年度の歳出予算は、景気の低迷で約1600億円の税収不足となりそうだ。そのため橋下知事は道路整備など、国直轄事業の府の負担金について、建設事業は2割減、国所管の公益法人向け負担はゼロという厳しい削減を財政当局に指示、負担拒否を前提に予算を組んでいるという。まさに禁じ手ともいえる作戦だが、これが認められれば、追随する自治体が相次ぎ、収拾がつかなくなる恐れがあり、国としては絶対に認められないところだ。
橋下知事にもちゃっかりとした計算がある。国が認めないことは重々承知の上でケンカを仕掛け、世論を喚起し、府民の支持を取り付けて、行政サービスの低下が招く不満の矛先をそらす。それが狙いとみられる。