生き写しの演技、一抹のもどかしさ

映画『W.』

2009年1月号 連載 [IMAGE Review]
by たまのじ

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映画『W.』

映画『W.』(日本公開は未定)

監督:オリバー・ストーン/脚本:スタンリー・ワイザー/出演:ジョシュ・ブローリン、ジェームズ・クロムウェル、エレン・バースティン、リチャード・ドレイファスほか

米国人の過半数が嫌悪し、その大統領在職期間8年間を心底から苦々しく思ってきた「ジョージ・W・ブッシュ」とはいったい何者だったのだろう。

直近の聞き取り調査では「史上最低の大統領の一人」というレッテルを貼られたブッシュの若き日とこの8年間(年齢では21~61歳)を「軽め」のドラマ仕立てにしたのがこの映画だ。タイトルは本人のミドルネームのイニシャルである「W.」。米国のメディアが、ブッシュの軽薄さに皮肉をこめてWを「ダブリュー」ではなく、出身地のテキサス訛りで「ダブヤ」と呼んだことも記憶に新しい。

Wは「一緒にビールを飲みたくなるような気さくな男」という売りで、一時は米国人のハートをつかんだ。その無邪気であけすけな人柄を、主演男優のジョシュ・ブローリンは熱演する。若い時からテキサスの名門ブッシュ家の落ちこぼれで、何をさせても長続きせず、大学入学、交通違反から女性関係まですべて尻拭いは父のジョージ・H・W・ブッシュの力で済まし、それゆえに何とか父親に認められたいとあがく父親コンプレックスのWの半生がつづられる。

アルコール中毒だったが、キリスト教原理主義への回心で脱却。生来の楽観主義と人をひきつける魅力でワシントン政界への道を歩むが、結局は父の政権時代からの重鎮で固められたネオコン集団の操り人形でしかないWの存在に、オリバー・ストーン監督は一抹の同情を覚えているかに見える。

映画のなかで役者たちが、ブッシュの家族や、政権を彩るキャラクターたちの外見や癖、口調などまで生き写しのパフォーマンスを演じるが、その鑑賞が一番の楽しみだろう。ディック・チェイニー副大統領を演じたリチャード・ドレイファスは『スター・ウォーズ』のダースベーダーのような圧倒的な存在感を示し、バーバラ・ブッシュを演じたエレン・バースティンは、頑固でコントロール・フリークな母親を好演している。

ただ、2時間を超すストーリーは、どこかの新聞で読んだ記事、テレビで見た映像の域を超えるものではない。『JFK』(91年)、『ニクソン』(95年)と2人の大統領を映画化したストーン監督ゆえ、Wへの批判精神がどう具現されるか期待感は高かった。限られた情報の中でつくられた映画であればこそ、逆にストーン監督と脚本家の想像力を飛翔させたエピソードがあれば、作品に解放感を与えることができたかもしれない。

だが、本作は見終わった後に何かもどかしさが残る。役者たちのパロディのおかしみも、NBCテレビの人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」でサラ・ペイリン副大統領候補を徹底的にパロディ化したティナ・フェイの才気に比べるとやや色あせる。

アフガニスタン、イラクを舞台に数万人が負傷、戦死した(そして戦争の行く先はまだ見えない)。“テロリスト”たちとの戦いは完全に泥沼にはまってしまった。アメリカ経済は破綻し、世界を巻き添えにして沈みつつある。ここまで世界を悪くした本人を、単なる父親コンプレックスのダメ息子として、悲喜劇で割り切ってしまうのでは、同時代に生きる人間として納得できない。

   

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