「値上げ」で屈した東京電力が「柏崎刈羽原発」で一歩前進

2008年12月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]

  • はてなブックマークに追加

東京電力は10月31日、燃料費調整制度に基づく来年1~3月の電気料金の値上げ幅を当初計画の半分に抑え、標準家庭で月額409円を引き上げると発表した。値上げ幅の圧縮は経済産業省の圧力を受けた「特別措置」である。

東電は前期決算で、柏崎刈羽原子力発電所の停止に伴う火力燃料費の増加と燃料費高騰のダブルパンチにより28年ぶりの赤字に転落。今期も大幅赤字を見込むため、早くから月額820円の値上げを表明していた。

そもそも値上げの根拠になる燃料費調整制度とは、円高と原油安の利益を消費者に還元することを目的に96年に導入されたもの。ところが03年以降、原油価格は上昇が続き、燃料費や為替の変動が3カ月ごとに自動転嫁される同制度のもとでは、来年1月からの料金は原油が1バレル=147ドルの史上最高値を記録した7~9月の燃料費を反映して、大幅な値上げになってしまう。このため9月に行われた電気事業連合会の会合で、二階俊博経済産業大臣が、「燃料費調整制度は、今の原油高を想定したものではない。電気料金は公共料金であり、国民生活に与える影響が大きい」と述べ、値上げ幅の圧縮を強硬に求めた。

株主にも配慮した東電は値上げ幅を半分にする代わりに、来年4月以降の1年間、料金に月額100円程度を上乗せしてコスト上昇分を回収する苦肉の策をひねり出した。監督官庁の圧力に完全に屈したわけではないものの、値上げの先送りを余儀なくされた格好だ。しかし、東電はタダでは起きなかった。値上げ幅圧縮を発表した1週間後の11月8日、運転再開準備のほぼ整った柏崎刈羽原発7号機に核燃料装荷作業を開始したのである。

「背景には10月19日に泉田裕彦新潟県知事が2期目の当選を果たしたことがある」と地元関係者は語る。泉田氏は昨年11月、「廃炉もあり得る」と発言して東電を仰天させたが、もともと経産省出身で原子力政策にも理解がある。東電は赤字転落の中で、中越沖地震の復興支援として昨年末、県に30億円を寄付し、その復興支援に地元から感謝の声があがった。泉田氏の発言も「予断を持たずに評価していく」とトーンダウンした。

泉田氏の2選に続き、11月9日、11日には柏崎市長選、刈羽村長選が告示されたが、原発反対を主張する候補者は出馬していない。

運転再開に向けた東電と3自治体による最終協議は、監督官庁の経産省が設置する調査対策委員会の最終報告後に開かれる見込み。「泉田知事は東電のさまざまな支援に報いる形で核燃料装荷作業にゴーサインを出し、早期運転再開を後押ししたようだ」と地元関係者は背景を明かす。

821万キロワットの発電能力を持つ柏崎刈羽原発がフル稼働すれば、6580億円にのぼる燃料費等の削減効果が発生する。仮に最新鋭の7号機が稼働するだけで年間1千億円を超える収益増につながるのだ。今期3250億円もの経常赤字を見込む東電にとって、7号機の運転再開は最大の課題となっている。

   

  • はてなブックマークに追加