英国にロシア人スパイ続々 対テロ防止に手が回らず

2008年9月号 GLOBAL [グローバル・インサイド]
by ゴードン・トーマス(インテリジェンス・ジャーナリスト)

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英防諜機関MI5は、英国内にロシア人スパイが続々と入り込み、イスラム過激主義者を対象にした国内の対テロ防止に支障をきたしているとの報告書を合同情報委員会(JIC)に提出した。報告書は7月の洞爺湖サミットから帰国したばかりのゴードン・ブラウン首相のもとにも届けられた。

MI5は報告書で、朗らかな笑顔を振りまくロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領の背後で二頭政治を敷いて真の権力を握っているのは依然としてウラジーミル・プーチン首相(前大統領)であると指摘。洞爺湖サミットでも、メドベージェフ大統領を囲んでいたのは、プーチン首相と同様にKGB(旧ソ連国家保安委員会)出身のメンバーだったと報告した。とりわけ頭の痛い存在が、英国を快く思わず、大統領に冷戦のピーク時を上回る数のスパイを派遣するよう唆している「シロビキ」(治安関係出身者)派だという。

MI5の調査によれば、ロンドンのロシア大使館を拠点に現在30人以上のスパイが「外交官」の肩書を隠れ蓑に工作活動を行っているが、ロシアから派遣される貿易振興団体の一員や一般のビジネスマンとして英国入りするスパイの数も増えているという。在英のロシア政府機関関係者の5人に1人がスパイという試算もある。

英国での使命は、ロシアからの亡命者や反ロシア政府主義者、国防関連機器メーカーや大学の科学者などの監視だ。MI5はロシア連邦保安局(FSB)の暗殺団メンバーが外交官として英国や他の欧州各国を出入りしている可能性もあるとみている。

ロシア人スパイの監視を広げるうちに、米CIA(中央情報局)ほど懐が潤沢でないMI5の対テロ工作費用まで圧迫されだした。ジョナサン・エバンスMI5長官は「資金は限界ギリギリまで逼迫し、ロシア人スパイ対応だけで底をつきかねない。対テロ工作活動用のメンバーの一部は、完全にロシア人スパイの監視に向けられてしまっている」と窮状を訴えた。MI5は報告書のなかで「いまや、ロシア人スパイは、国際テロ組織アル・カイダ、イランの核拡散問題に次ぐ、第三の国家の脅威だ」と警告した。英政府は外務省を通じて、ロシア側にロシア人スパイの監視活動が英国内のテロ対策の障害になっていることを訴えたが、一蹴されたという。

著者プロフィール
ゴードン・トーマス

ゴードン・トーマス

インテリジェンス・ジャーナリスト

脚本やBBC、米テレビ放送ネットワーク向けテレビ番組も手がける。2005年2月に放送されたフランスのテレビ番組でダイアナ元妃の事故死についてコメント、同番組の視聴者数は900万に上った。対テロ国際会議(2003年10月、コロンビア)で講演したほか、米中央情報局(CIA)、英防諜機関(MI5)、米連邦捜査局(FBI)、英対外諜報機関(MI6)など世界34カ国の諜報機関幹部を対象にした講演では、1時間半のスピーチの後の質疑応答に2時間が費やされた。ワシントンで米国防総省、その他機関の関係者を対象にした講演経験もある。FACTAのほか、英独など欧州やオーストラリアのメディアにも多数寄稿。

   

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