2008年6月号 DEEP [ディープ・インサイド]
今年、海上保安庁は創設60周年を迎えた。戦後のドタバタのさなか、海上の治安を守るため、1948年5月1日に発足。「治安の維持」「海上交通の安全確保」「海難救助」を掲げ、『海の警察』『海の消防』として活動してきた。その海保庁が頭を抱える問題が発生している。
洋上での捜索救難用に使われてきた「ベル212」というヘリコプターの後継機として新しいヘリコプターを導入することになった。それがイタリアのアグスタ・ウェストランド社製の「AW139」である。06年度に契約を交わし、07年度末に3機を約50億円で正式に購入した。
海保庁では契約前に希望する機体の仕様書を示し、それに見合う性能を有する機種しか応札できないようにしている。
表向きは完全な入札方式だが、「海保庁側は早い段階で欲しい機体を決めており、事実上の随意契約になっている」と関係者は言う。
今回は「ベル212を遥かに凌ぐ高性能」を求める入札で、専門商社Aが提案したAW139に決まった。AW139は生産国のイタリアはもとより、多くの国で軍用、警察・消防用ヘリとして使用され、定評のある機体。導入計画は何ら問題がないと思われた。ところが、ある海保関係者はこう漏らす。
「新ヘリには『高い捜索救難活動が行える装備・能力』を要求し、SAR(Search and Rescue=捜索救難)モードという高度なシステムが仕様書にも入っていた。ところが、アグスタ社の不手際などにより、この機能が装備されていなかった」
SARモードは洋上で要救助者を発見すると、操縦システムと連動し、その上空を旋回したり、ホバリングなどの一連の動きを自動で行えるという画期的なシステムだ。これまで、こうした作業はすべてパイロットがマニュアル操作で行っていた。さらに機外カメラやレーダーなどとも連動しているという。
海保庁幹部も「救助の成功率にも大きく寄与する」と胸を張って宣伝していた。
ところが、海保庁が求める性能を持たない「欠陥ヘリ」のお目見えとなった。本来なら、SARモードが装備されていないことが判明した時点で導入を見合わせるべきだったのに、装備技術部の幹部が独断で3月31日に予定通り「受領」してしまった。
「うち1機は日本に到着した時点で塗装されていない状態だった」と海保庁関係者は嘆く。
もし、海保庁が「仕様書を満たすまで受け取らない」方針を打ち出したら、新ヘリ導入は次年度になってしまう。せっかく確保した予算が消化できず、財務省に予算を召し上げられる可能性さえ出てくる。
そこで「目をつぶって受領した」というわけだが、果たして、それだけの理由で欠陥機を買うだろうか。
欠落したSARモードは、いずれ装備されるだろうが、それが半年後になるのか、1年後になるのか、「今のところわからない」(海保庁幹部)とは、何とも腑に落ちない。
そもそも、どうしてAW139に決まったのか。それは海保庁が同機を望んだからである。競争入札が行われたものの、海保庁のヘリの大半がA社の納入であり、その実績から「装備技術部とのデキレース」(業界筋)との声もある。
さらにきな臭いのは、A社には海保庁から天下りした幹部が顧問として名を連ねていること。「顧問の存在がモノをいった」と漏らす関係者もいる。
おまけに昨夏、先の装備技術部幹部はA社の案内でイタリアへアグスタ社視察に出かけている。公務出張であったが、現地でアグスタ社などから接待を受けなかっただろうか。
この装備技術部幹部は自らAW139の受領試験を行い、就役に問題がないために受領したというが、果たして適切な判断だったか。
今後、財政当局や会計検査院の動きが注目される。
取引先商社による過剰接待が問題となった防衛省汚職の後だけに、海保庁内からも「業者同伴の海外出張は脇が甘かった。襟を正す必要がある」(幹部)との声が上がっている。