2008年5月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]
「深夜の自宅送りが、3人相乗りになってしまっては、帰宅が遅れて仕事になりません」
「ハイヤーがあるだけでもいいと思え。俺が若いころにはタクシーで夜回りして取材先に馬鹿にされたものだ」
日経新聞の社内報に載った座談会でのやりとりが、社内でひとしきり話題になった。
「3人相乗り」に不満を言うのは若手女性記者。これに反論するのが杉田亮毅前社長(現会長)だ。同社では、帰宅が深夜に及ぶ記者職には以前から本社発の自宅送りハイヤー制度がある。
ヒヨッコ記者まで黒塗りで自宅に送ってもらうこと自体、時代錯誤と言わざるをえないが、そんな優雅な日経でも経費節減は緊急課題。従来は、自宅が同じ方向にある人が2人集まった時点でハイヤーが発車していたが、今後は3人集まるまで待たなければいけなくなった。
さらに、これまで随時発車していたハイヤーも30分おきという、バスのような運行方式に変わり、記者たちから不満噴出という。
記者が自由に使えるタクシーチケット制度が残っていた大阪本社編集局でも昨年秋、ついに廃止になり、記者は自腹でタクシーに乗り、いちいち精算しなければならなくなった。東京編集局でも「アシスタントの派遣社員の3人に1人が減らされ業務が滞っている」(日経社員)という。
日経はこの1月、08年度の経営計画で一般経費の10%削減を打ち出した。ビジネスマンや高所得者層を読者に持ち、大手5紙の中では比較的広告単価が高かった日経でも、広告収入の目減りは深刻さを増している。社内では「2009年の峠」という言葉が囁かれている。
日経は東京・大手町の合同庁舎跡地に09年の完成をめざして新本社を建設中。印刷工場ではカラー化にともなう設備投資をしており、「これらの減価償却費が発生しはじめる09年12月期には、最終損益が赤字に転落してもおかしくない状況」と日経幹部は漏らす。
「企業経営のお目付け役である日経がみずから赤字経営では示しがつかない」(杉田前社長の年頭挨拶)。取材先から「特権階級」と揶揄されてきた記者たちも受難の時代を迎えそうだ。