自民が狙う小沢「首狩り攻撃」

民主の弱点は小沢の醜聞。その政治団体の資産や交友関係の洗い出しに躍起だ。

2008年5月号 POLITICS

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「ガソリン国会」で攻勢に出た民主党の危うさを、党幹部が痛感している。自民党が税制関連法案の早期採決を促しても、民主党は拒み続けた。ガソリン税の暫定税率の失効を一日でも長く続けるためだ。

民主党の輿石東参院議員会長は先日、久しぶりに歓談した旧知の参院議員にこんなぼやきを漏らした。

「今のままではどうしようもない。与党と話し合おうとすれば、若い連中が黙っていない。民主党がまともになるには、もう半年間かかる」

小沢と民主執行部に亀裂

参院第1党の民主党を仕切る輿石氏は、青木幹雄前自民党参院議員会長に代わる「参院のドン」となった。だが、輿石氏も、民主党の機能不全で身動きが取れないでいる。

「住専の時と同じだ」と嘆くのは旧新進党出身の民主党議員だ。

1996年の通常国会。新進党は、破綻した住宅金融専門会社(住専)を処理するための公的資金投入をめぐり、政府・与党と激突した。

「税金による後始末は許せない」と、新進党は衆院予算委員会室をピケで封鎖した。終日、新進党の議員と秘書が赤じゅうたんに座り込み、与党議員や国会の衛視とにらみ合った。

だが、審議拒否を続ける新進党にメディアの批判が集まると、党内は動揺した。混乱を助長したのは小沢一郎党首のかたくなな対応だ。幹部からピケの撤収を進言された小沢氏は「みんなで決めた方針だ」と拒否。党首と幹部がぎくしゃくし、党の対応は迷走した。結局、20日余りでピケ中止に追い込まれ、新進党が失速する一因となった。

今の民主党は、この時の構図と似ている。党首が小沢氏という点だけではない。小沢氏と党執行部の間に溝があることもそうだ。

福田首相が、自民党内の反発を押し切って道路特定財源の一般財源化を提案した際、小沢氏はいち早く拒否を決めた。伝え聞いた鳩山由紀夫幹事長はこう語った。

「一般財源化を呑めば自民党はガタガタになったかもしれないのに、暫定税率の失効を優先させてしまった」

党務を所管する鳩山氏と小沢氏は、気軽に電話して話し合う間柄ではない。渡辺博史前財務官の日銀副総裁人事に同意するかどうかでも2人は鋭く対立した。「小沢さんの考えは分からない」と再三漏らす鳩山氏の「小沢離れ」は加速している。

小沢氏側近とみなされる山岡賢次国会対策委員長の立場も微妙だ。山岡氏は、週末のテレビ番組で与党幹部を相手に丁々発止を演じるなど、「民主党の顔」になりつつある。

しかし、小沢氏周辺は「山岡氏は小沢氏の不興を買っている。テレビで大言壮語する山岡氏に小沢氏は不快感を隠そうとしない」と証言する。菅直人代表代行も、小沢氏とそりが合うタイプではない。

小沢氏と党執行部の関係にひびが入ったきっかけは、昨年秋の「大連立騒動」だ。11月2日、首相と2回の党首会談を終えた小沢氏は鳩山、菅、輿石3氏と打ち合わせをした。

大連立に向けた自民党との政策協議や、連立政権での民主党への閣僚配分を了承した。この後の臨時役員会を乗り切る方策も打ち合わせた。

「頃合いを見計らって、論議を打ち切り、『小沢代表に一任するしかない』と了承を取りつける」段取りも決めた。しかし、大連立への拒絶反応は予想を超えた。赤松広隆選挙対策委員長らが次々と反対論をぶつ中、役員会の雰囲気は一変した。気おされた鳩山、輿石両氏は代表一任を言い出せず、小沢氏は大連立構想を撤回せざるを得なかった。

党内への不信を強める小沢氏、小沢氏への申し訳なさと党内の突き上げの板挟みとなる党執行部、世論の動向に振り回される中堅・若手議員。

この3者がにらみ合う構図が定着した。中堅・若手が声を上げれば、執行部はうろたえ、小沢氏と十分に意思の疎通ができないまま、強攻策を重ねていく。

「陸山会」疑惑を蒸し返す?

ばらばらになりがちな党内をまとめるのは「総選挙カード」しかない。小沢氏が「解散・総選挙が近い」と繰り返すのは、公認権と選挙支援を武器に、造反を抑え込み、自らの求心力を高めるためにほかならない。

だが、政権交代におびえる政府・与党が早期の解散に応じない以上、国会はいずれヤマ場を越し、民主党の攻勢は終わる。

民主党を脅かすのは、党代表選を契機とした「9月危機」だ。鳩山、菅両氏ら幹部は06年から代表を務める小沢氏の続投を支持している。

「ポスト小沢」有力候補の岡田克也副代表も小沢氏の続投に異論を唱えていない。枝野幸男元政調会長らを擁立し、世代交代を図ろうとする声も党内に広がっていない。

先日、中堅・若手議員らの会合でこんな話が出た。

「小沢氏が代表選で負けると、党内は混乱する」

「それどころか、有力な候補が出ただけで、立候補自体を取りやめるかもしれない」

代表選で勝てなかった小沢氏が十数人の参院議員を連れて離党し、与党の側に回れば、民主党は参院での優位を失い、万事休すとなる。

党内の最大公約数は、混乱を回避するための「小沢体制の継続」だ。小沢氏を「乱心しかねない殿」に見立てれば、代表の座は「座敷牢」のようなものか。

民主党が抱えるのは「内憂」だけではない。自民党は、衆院選での対決を想定し、小沢氏の弱点の洗い出しに余念がない。対象は、小沢氏の資産や個人的な交友関係までと幅広い。とりわけ、昨年発覚した小沢氏の資金管理団体「陸山会」が政治資金収支報告書の「事務所費」に不動産取得費を計上していた問題などを蒸し返そうとしているようだ。陸山会は東京都や地元の岩手県など12カ所に取得総額10億円を超える土地、建物を保有。政治団体名義の登記が認められないため、登記簿上は小沢氏の名義になっている。小沢氏は「個人では処分ができず担保権も設定できない」などと釈明したが、自民党関係者は「疑惑が晴れたわけではない。小沢を揺さぶる材料を揃えれば、民主党は怖くない」と自信をみせる。

小沢氏が民主党の最も弱い部分であることは衆目の一致するところだ。

「首狩り攻撃(Decapitation Strike)」

03年3月のイラク戦争冒頭、米国の各新聞をこの見出しが飾った。米軍はフセイン大統領が潜んでいるとされたバグダッドの建物に巡航ミサイルを撃ち込んだ。大統領は不在で空振りしたものの、トップを狙う戦法は歴史上、枚挙にいとまがない。

同じ年の秋、民主党は小沢氏率いる自由党を吸収合併した。当時、民主党のベテランはこうつぶやいた。

「小沢氏は『毒』かもしれない。だが、それに耐えないと民主党は政権に手が届かない」

それから4年半。民主党は小沢氏の持つ「毒」をいまだに克服できないでいる。

   

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