損保業界に不正会計疑惑 「未払い保険金」を過小計上か

2008年4月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]

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保険金不払い問題の後始末に追われる損害保険業界で、新たな火種が取り沙汰されている。一部の損保に対して、「未払い保険金」過小計上などによる経常利益「嵩上げ」疑惑が持ち上がったのだ。金融庁も関心を寄せており、利益操作に照準を合わせた「ターゲット検査」を通じ、疑惑にメスを入れると囁かれている。

大雑把に言えば、損保の粗利益(A)=収入保険料(B)-支払い保険金(C)-未払い保険金(D)になる。3月決算期末までにある事故の保険金支払いが確定しない場合、損保会社はとりあえずDを計上したうえで、翌期以降に精算する。いくら計上するかは会社側の裁量であるため、不正会計の温床にもなりやすい。

とはいえ、Dが実態と懸け離れると、決算に対する投資家の信頼を失うため、東京海上日動火災保険や三井住友海上火災保険などは、最終的に誤差が最小限になるよう、Dを「保守的に」計上するという。

ところが、業界有力筋は「一部の損保では、Dの圧縮で利益を嵩上げする会計操作が行われているはず」と明かす。例えば、自動車保険の死亡事故が期末近くに起きたとする。事故の形態からして1億円をDに計上すべきでも、「相手に一部過失がある」とみなして恣意的に7千万円に減らせば、Aを3千万円水増しできる。このように損保会社では、経営陣が損害査定部門に「未払い保険金を厳しく見積もれ」と号令をかけているという。

当然、最終的には1億円の支払い義務があり、翌期のCが拡大してAも減少してしまう。このため、この利益操作に一度手を染めると、翌期以降も同様の「モルヒネ」を毎年打ち続けなくてはならない。

ある損保会社の決算は、業界平均のトレンドから乖離して推移している。数年前に損害率が突然下降した後、じりじりと上昇しているのだ。これがモルヒネ治療を映し出している可能性を否定できない。

会計操作をめぐっては、別の手口も指摘されている。「先食い」と呼ばれるもので、4月以降スタートする契約の保険料を3月末までに顧客から受け取り、3月期決算に前倒し計上してBを嵩上げするのだ。

営業現場の競争過熱を避けるため、大手損保の大半は禁じ手の自粛を申し合わせたが、一部は先食いで利益を水増ししているという。もちろんDの操作と同様、先食いも毎年行わないと帳尻が合わなくなるのは明白だ。

腑に落ちないのは、こうした不正会計によって利益が増えれば、課税所得も膨らんでしまう点だ。すなわち、こうした損保会社は法人税を余計に納めている公算が大きい。過去に業界では、Dの「過大計上」という正反対の手口により、大手一角の脱税疑惑が浮上したことがある。

換言すれば、今回疑惑が持ち上がっている損保会社は、税金を多く払ってでも決算に化粧を施す必要性があったのだろう。

前出の業界有力筋は「水面下の業界再編劇で主導権を握ろうとしたか、あるいは大株主の増配要求に応じるための内部留保策か、そのどちらかではないか」と推測している。

   

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