2008年3月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]
「25階以上を建て直してほしい!」
分譲購入者の切なる声をあざ笑うかのように、鉄筋不足が指摘された千葉県市川市の超高層マンションの補強工事が1月25日から始まった。
事業者は施工を担当する清水建設と、販売の三井不動産レジデンシャル、野村不動産の3社。事の起こりは昨年10月。建設中の45階建てマンション「ザ・タワーズ・ウエスト・プレミアレジデンス」で評価検査機関が25~30階に128本の鉄筋が不足していることを発見。しかし、この事実を購入者が知るのは約1カ月後、読売新聞にスクープが出てからだった。
事業者側は事実を公表するどころか、欠陥工事発見後も、ミスを隠して販売を続け、契約者に手付けの入金を急がせた。総分譲戸数407の16%にあたる66戸がそれだ。11月に入って手付金を振り込んだ主婦は「だまされた」と気色ばんだ。
事業者側は「顧客に説明すべき重要事項にあたらない」として、11月下旬に契約者に対して20回の説明会を開いた。そこでは冒頭の購入者の声は黙殺され、「速やかに補強工事を行う」「計画どおり2009年1月に完成させる」という一方的な説明に終始した。
このプロジェクトはJR市川駅南口の再開発事業の一環で、施工者は市川市。当該3社は特定建築者にあたる。したがって市も管理責任を問われる立場にあるのだが、市が気にかけるのはもっぱら地権者の方。仮に25階以上を取り壊して建て直すとなると「10カ月以上の遅れが出る」(清水建設)ため、完工期日に到底間に合わない。
うがった見方をすれば、完成遅延による工事費増大や100戸を超える地権者への営業補償などの懸念が先に立ち、市も事業者側も居住者の「安全」「安心」「精神的な快適性」が確保される建て替えなど初めから念頭になかったということか。事態を憂慮した「契約者の会」が12月末に、国土交通大臣や千葉県知事、市川市長に陳情、「適正な行政指導」を求めたのは自然な流れだ。
この事実を報道で知った冬柴鐵三国交相も、消費者保護の観点から契約者や周辺住民への誠実な対応を求める記者会見を行った。冬柴大臣は類似の施工ミスで竹中工務店が対象階を解体、再工事したことに触れ、「きちんとやっている」と評価する発言もしている。それにもかかわらず国交省は「契約者の会」の要請を容れることなく、清水建設から12月20日に提出された補強工事計画書を急いで審査し、何と御用納めの28日に認可してしまった。
当局の「お墨付き」を得た事業者3社は一気に強気になり、契約者のさまざまな要求には耳を貸さず1月末に工事再開に踏み切った。
年明け、福田康夫首相は住宅の耐震偽装や食品の表示偽装など度重なる不祥事を受けて、政治の軸足を「消費者主役」「生活者重視」に切り替える方針を打ち出した。政府・与党内には「消費者庁」創設に向けた動きもある。市川市の「欠陥マンション」騒動は、我が国の消費者行政の方向性を問う格好の試金石になりそうだ。
それにしても、清水建設の経営理念は眉唾だ。「顧客第一 常に顧客の立場に立って考え行動し、顧客に役立つことにより当社も適正な利潤を頂くことを基本とする」などと麗々しい文句が掲げられているが、白々しい限りだ。