CS放送「e2」優先のスカパーに白い目

従来のスカパー!TVの放送局は見捨てられたのか。地上・BSと3波共有のe2に加入者奪われ撤退も。

2008年3月号 BUSINESS

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通信衛星(CS)放送が股裂き状態に陥っている。CS放送のプラットフォームを提供しているスカイパーフェクト・コミュニケーションズ(スカパー)と、個々のチャンネルを担う放送事業者の関係がギクシャクしているからだ。

スカパーは1月1日、携帯端末向けコンテンツ配信事業などを手がけるスカパー・モバイルを完全子会社化した。2011年のアナログテレビ放送停止に伴う空き周波数帯を活用した次世代モバイル放送サービスへの取り組みを本格化させたのだ。

ところが、CSの放送事業者数社は昨年11月からKDDIなどが東京
・原宿で実施している次世代モバイル放送サービス「メディアFLO」屋内実証実験にコンテンツを提供している。スカパーが肩入れする「ISDB-Tmm」のライバルと目される放送規格への協力である。

この“反逆行為”について、KDDIなどに協力したCS放送事業者は「(メディアFLOから)実験用のコンテンツ提供を求められたから応じただけ。反旗を翻したという意味合いはない」と説明。スカパー側から注意を受けるような事態も今のところは起きていないという。

ただ、スカパー・モバイルの子会社化によって重要性が高まった次世代モバイル放送に対して、放送事業者側は「(周波数獲得の戦略上)今から取り組むべき事項であることはわかるが……」と冷ややかだ。

認可の要件が厳しいe2

07年3月期の経常損失が2億2千万円という出資会社(スカパー51%出資、05年6月設立)を完全子会社化して立て直すのだから、飛躍の期待をかけることに無理があるとはいえ、それ以上に事業者は次世代モバイル放送への関心が低いようだ。

ギクシャクはそれに留まらない。CSには衛星が位置する経度の違う2種類――従来の「スカイパーフェクTV!」(124.128度、以下スカパー!TV)と新しい「e2 by スカパー!」(110度)があるが、スカパーはe2を売り込もうと、積極的なPR展開をしている。これが従来のスカパー!TVだけで放送サービスを提供する事業者には面白くない。

e2はBSデジタルの放送衛星と同方向に位置するために、同一アンテナでの受信が可能となる。このため地上・BS・CSのデジタル3波共用機(当初はBSとの2波)にe2チューナーが組み込まれた。スカパーは3波共用機の出荷が多く見込まれる年末商戦をにらんで、07年10月から人気タレントデュオ「WaT」を起用したe2のCMを地上波全国放送に流したのである。

しかし、スカパー!TVでしか放送していない事業者は「スカパー!TVの加入者数は減り続けている。e2が増え続けているといっても、ほとんどが乗り換えではないのか。なぜe2ばかり優遇して売り込むのか」と憮然としている。

いわば、盛り場ビルを保有する大家が、新たに建てたビルに有頂天になり、店子に入った若いママのために客引きに励むものの、元のビルはほったらかし。とうとう古手の店子たちが「見捨てる気なのか」とヘソを曲げる、といった光景に近い。

スカパー!TVからe2への乗り換えの実態は明らかでないが、公表数値を見る限り06年12月期以降、スカパー!TVの契約は純減を続けている(総登録者数ベース)。同年7~11月期ですでに5カ月連続純減を記録しており、実際には06年半ばから右肩下がりの状況と言っていい。一方のe2は07年11月期で5万7千件の純減を記録したものの、それまではサービス開始(02年7月)以来純増を続けてきた。

e2とスカパー!TVは事業者が取得すべき免許も異なる。スカパー
!TVは電気通信役務利用放送事業者としてサービス提供が可能だが、e2では規定の厳しい委託放送事業者の認可が必要。CSの放送局全部が必ずしも両方でサービスを実施していないのはこのためだ(帯域上の問題もあるが)。アダルトや公営ギャンブルの専門チャンネルがe2側に存在しない理由もここにある。

「役務利用放送は規定も緩く、極端な話、書類を出せば認可が下りる。いくら一般テレビ端末にチューナーが組み込まれるとはいえ、BSや地上波と同等の規定をクリアすることが必要な委託放送事業者の免許をとるほどの魅力を感じなかった」と先の放送事業者は打ち明ける。

その読みはある程度的を射ている。いかに右肩上がりとはいえe2の総登録者数は約53万件にすぎない(スカパー!TVは約350万件)。受信可能端末自体は推定2000万台近く出荷されていると見られることから、いかに加入促進が必要な状況であるかがわかる。

スカパーも開始当初はプラットワンとの2プラットフォーム体制だったとはいえ、その事業戦略はおよそ力を入れているとは言い難いものであった。02年5~6月のサッカー「ワールドカップ日韓大会」では巨費を投じてCSでの試合中継権を獲得したものの、結果的に「日本の放送事業者によるFIFAへの権利料二重払い」の片棒を担いだ。NHKと民放連事務局で構成するジャパンコンソーシアム(JC)が白い目を向けたのは当然だが、この時点で110度CS放送のサービスを決めていた放送事業者の怒りはそれ以上だった。

「これからはIP」という声

「サービスインを目前に控えながら、あえて124・128度CSの加入増をめざすキャンペーンに巨費をつぎ込むとは。立場が弱いので文句は言いづらいが、あの時ばかりは詳細な釈明を求めました」。もちろん、スカパーの答えは「両者とも並行してPRに力を入れる」という当たり障りのないものだったという。

スカパーと放送事業者には、圧倒的な力の差がある。前者の“横暴ぶり”が伝えられてきたが、07年4月に公表された「プラットフォームの在り方に関する協議会」報告書で一応の関係見直しが図られた。

これを機にスカパーは“表面上”おとなしくなった。プラットフォーム事業者の横暴を言い訳に、積極的な活動を放棄してきた放送事業者側も自主性が見られるようになった。共通の目標である「HD化」に力を合わせ、07年10月からはCS系放送事業者の「衛星放送協会」を中心に機械式接触率調査をスタート。加入契約収入だけに頼らず、広告収入増に向けた下地作りに励んでいる。

しかし、依然として深い溝が存在するのも事実。ある放送事業者は早くもスカパーに見切りをつける姿勢を見せ始めた。

「正直、CS放送から撤退することも考えています。幸い、NGN(次世代ネットワーク)をはじめとする通信インフラの大容量化が進んでいますから。高圧的な態度のプラットフォームを相手にする必要もなくなりますし、コスト面でもお得。同じ境遇の事業者から『これからはIP(インターネット・プロトコル)』という話をよく聞きます」

ちょっと待て。新サービスに目を向ける前に一度、足元を見つめなおしたほうがいいのでは?

   

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