核開発計画を丸裸にしたイラン要人の「亡命作戦」

2007年5月号 GLOBAL [グローバル・インサイド]
by ゴードン・トーマス氏(国際インテリジェンス記者)

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イランの情報機関トップだったアリ・レザ・アスカリ元国防軍需副大臣(63)が妻子とともに亡命した。その作戦を主導した英国の対外諜報機関MI6は「冷戦の終結以来、もっとも大胆な作戦の一つ」と自賛している。アスカリ氏は、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織「ヒズボラ」との関係が深く、昨夏のイスラエルとの戦闘ではヒズボラに武器の密輸ルートを開いた人物としても知られていた。

アスカリ氏がトルコのイスタンブールで「失踪」したのは2月初め。イランは青ざめた。なぜなら、氏は核開発計画に精通しており、各施設の開発や警備の状況まで網羅しているからだ。加えて、英米が知らない情報も握っている。イラン外務省がトルコに捜索協力を要請したが、時すでに遅し。表向きはシリアの諜報員やヒズボラ関係者との定例会議に出席するとしてシリアのダマスカスに来ていたアスカリ氏は、イスタンブール経由で英国に向かった後だった。

アスカリ夫人も1月末に子供たちを連れて黒海沿岸のサムスン(トルコ)に「短期休暇」に出かけ、現地でトルコおよびMI6の諜報員と合流。2月3日にイスタンブールから空路ローマを経由してロンドンに向かった。

「亡命作戦」は数カ月前から念入りに練られた。イスラエルの「モサド(対外情報機関)」からイランとトルコの諜報機関に潜伏させている秘密工作員の協力を得られたことも大きかった。今年1月上旬には、MI6とモサドのトップシークレットの会合がロンドンで開かれ、その後、トルコの諜報機関も巻き込み、アンカラ、テルアビブで作戦会議を重ねた。並行してイランに潜伏する複数のモサド秘密工作員がアスカリ氏に直接接触したところ、氏が家族とともに国外脱出を希望していることも判明したという。

作戦が成功したおかげで、MI6とCIA(米中央情報局)の共同チームは、アスカリ氏から核開発計画のみならず、イランとヒズボラが従来以上に接近している事実についても正確な情報を入手。アスカリ氏は家族ともども保護されることが確約され、証人保護法のもとでアメリカの管理下に置かれることにも同意しているという。

   

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