やばい激安航空「スカイマーク」

ゴールデンウイークに東京~札幌片道5千円。常軌を逸したバーゲンで「安全」は大丈夫?

2007年5月号 BUSINESS

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我が国初の新規航空会社、スカイマークが危機に直面している。交通機関の生命線である安全管理体制の不備露呈で顧客の信頼が揺らいでいるうえ、やみくもな低運賃戦略で収益も悪化。2006年度の最終赤字は前期の8倍近い54億円を見込む。

今年度に入って「ゴールデンウイークに東京~札幌片道5千円」を呼び物にする「常軌を逸したバーゲン」(大手航空会社幹部)で「翼の安全は保てるのか」と、関係筋から不安の声があがっている。9年前に颯爽と登場した航空業界の新星は今、視界ゼロの虚空をさ迷っている。

スカイマークの前途に警笛が鳴らされたのは昨年暮れだった。みすず監査法人が12月27日、スカイマークの06年9月中間期の半期報告書に「継続企業の前提に重要な疑義が存在する」との異例の注記を付けたと発表。同社が中間決算で26億5千万円の営業赤字を計上、営業キャッシュフローも15億4千万円のマイナスとなったとの発表を受けた直後だった。1年前の05年9月期は営業損益段階で2億7500万円の黒字、営業キャッシュフローも20億2800万円のプラスだっただけに、急速な収益悪化に監査法人も慌てたようだ。

「ヒルズ族」に連なる社長

スカイマークは同日、「航空機整備部門の拡充、定時運航率の向上、適正な航空運賃の提供などにより全般的な収益拡大を図っている」などと反論。キャッシュフローについても「資金需要の圧縮などで状況は改善する。金融機関等からの借入、資産の流動化など複数の具体的な資金調達手段を確保しており、継続企業の前提に関する重要な疑義は解消する」と表明、経営危機説を否定した。

しかし、「疑義」は消えるどころか燃え広がる一方だ。同社が2月14日に発表した第3四半期決算(06年4~12月)はさらに悪化。営業赤字は34億8200万円に膨らみ、営業キャッシュフローのマイナス幅も24億9200万円に拡大した。通期の業績予想も売上高が昨年11月の中間決算発表時点よりさらに19億円少ない391億円、経常赤字は34億円悪化の52億円、最終赤字も34億円悪化の54億円と、06年度中3回目の下方修正を余儀なくされた。

かつて日本航空や全日本空輸、日本エアシステムによる寡占を打破する「規制緩和の旗手」として喝采を浴びた同社が迷走を始めたのは、04年にIT(情報技術)業界から転進した西久保慎一氏の社長就任後である。西久保社長は神戸大工学部卒。独立系インターネット接続会社「ゼロ」の経営でのし上がり、堀江貴文被告とも親交があり、ライブドア買収の際、共同買収を持ち掛けられた逸話がある。スカイマークの創業者である澤田秀雄エイチ・アイ・エス会長に西久保氏をつないだのは、ライブドア事件の渦中に自殺したエイチ・エス証券の野口英昭副社長だった。西久保氏は04年にスカイマーク株を買い取り、澤田氏に代わって46
.4%の筆頭株主となったが、もともと航空業界とは無縁のIT系経営者。「スカイマークに深入りしたものの、買い手が現れればいつでも売却する意向」と噂される、今時の「ヒルズ族」に連なる人物だ。

スカイマークは昨年、整備ミスによるトラブルが相次ぎ、「安全・安心」の根幹を軽視したことで指弾を浴び、国土交通省から業務改善勧告を受けた。しかし、西久保社長は怯むことなく「価格こそが最高のサービス」と欧米流の低価格戦略を打ち出した。主力の羽田~福岡線で普通運賃(定価)1万6500円、新規参入の羽田~千歳線、羽田~神戸線で同1万円など、ライバル航空に「安さ」で大差をつける「アメ」をユーザーにばら撒いた。

半面、「ノン・フリル」と銘打って、無料ドリンクや機内誌などの機内サービスを廃止。欠航や大幅な遅延時の対応も縮小し、他社便への振り替えやホテルの提供などコストのかさむ補償も廃した。いかにもIT系らしい合理主義経営だが「安さ」はともかく、「低サービス」は不評で、無料ドリンクも機内誌もその後、復活を余儀なくされた。

西久保氏は「日本のローコストエアライン」のビジネスモデルを目指したが、顧客サービスの質まで削ってしまったため搭乗率が伸び悩んだ。さらに客単価を大幅に引き下げた結果、搭乗率と客単価の掛け算である収益が悪化。第3四半期決算時点(同年4~12月)の旅客数は前年同期比25.8%増えたのに、旅客収入は同9.5%しか伸びなかった。

特に昨春、新規参入した羽田~千歳線は日航、全日空、エア・ドゥとの激しい乗客争奪戦で苦戦し、搭乗率は中間決算時点で54%に低迷。第3四半期決算時点では53%とさらに下降した。ドル箱の羽田~福岡線の搭乗率も中間56%→第3四半期61%と以前より振るわないのは、その低価格戦略が空回りしたためだ。

営業不振に窮した「奇策」

ところが、西久保氏はさらにアクセルを吹かす。今年に入って「片道5千円」という激安チケット「スカイバーゲン」を打ち出した。昨年2月から1便15席以内、搭乗49日以上前の前売りに限定して全路線で一定期間に導入、一部の低収入層に歓迎されたようだが、「羽田~千歳片道5千円では、逆立ちしてもコストを賄えない。果たして安全が保たれるのか」という不安のほうが先に立つ。激安を呼び物にした宣伝に国土交通省関係者も渋い顔だ。

今年の4月28日から6月30日まで羽田~千歳線5千円だけでなく、羽田~福岡線1万円、羽田~神戸線6500円、羽田~那覇線1万円で予約販売中の激安チケットは「発売日に即完売」と胸を張るが、問題はゴールデンウイーク(GW)の繁忙期から2カ月も採算無視の激安チケットを売り続ける経営姿勢だ。航空の専門家は「料金を上げても客が乗るGWにあえて激安をぶつけ、それを2カ月間も続ける道理はない。営業不振に窮した奇策ではないか」と冷ややかだ。

株価も昨年7月上旬までは600円前後で推移していたが、9月に三菱UFJ証券を引受先として発行した新株予約権(第三者割当増資)に権利行使価格の下方修正条項(下限184円)がついてから棒下げ。結局、今年1月10日に三菱UFJ証券は下限の184円でスカイマーク株を200万株購入。その後の株価は下限価格に張り付いた状態だ。スカイマークは3億6800万円の資金を手に入れたが、不利な増資条件を呑まざるを得なかった。こうした下方修正条項付きの資金調達は米国では「デス・スパイラル・ファイナンス」(死に至る資金調達)などと呼ばれる禁じ手。エア・ドゥやスターフライヤーなど他の新規航空会社も安泰とは言えないが、こうした危うい資金調達には手を出していない。

さらに人材流出、人心荒廃もはなはだしい。今年1月末、客室乗員部長と客室訓練部長が揃って退社。どちらも客室の安全やサービスに関わる重要ポストで、両部長の同時辞任は異例だ。「2人の退社は現経営陣に対するノーのメッセージだ」と幹部社員は声を潜める。「安全とサービス」を軽視する経営姿勢に対する現場の反発を裏付けるものだ。

果たして「気軽で便利な交通機関としてご利用いただける、身近な航空会社」を看板に掲げるスカイマークに明日はあるのだろうか。

   

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