教授、コメンテーター、コンサルタントの三つの「顔」をもち、華麗な経歴。でも高報酬は「取りすぎ」では……。
2006年9月号 BUSINESS
佐山展生氏。ロマンスグレーでソフトな語り口。テレビ朝日「報道ステーション」にコメンテーターとして時折顔を見せ、難しい経済の話をやさしく解説する。
繊維大手の帝人、旧三井銀行を経て企業再生ファンドを創設。米国でMBA(経営学修士)を取得し、東京工業大学博士課程でも学んだ。兼業で一橋大学大学院教授も務め、週3回夜間に講義を受け持つ。現在の本業は、2年前に設立したM&A(合併・買収)支援を中心とするコンサルティング会社GCAの代表取締役だ。オフィスも帝国ホテル横の一等地に構える。
あの「村上ファンド」に関連した阪急ホールディングス(HD)と阪神電気鉄道の経営統合で、佐山氏は村上世彰氏側が保有する阪神株の買い取りなどを交渉する阪急HD側の財務アドバイザーを務めたことでも知られる。戦後初となる私鉄同士の経営統合の作戦を練る、いわば「参謀役」だった。
ところが、統合の「立役者」であるはずの佐山氏の関西での評判が芳しくない。アドバイザーとしての報酬が巨額の割に、実際の働きは大したことなかった、という声が阪急HD関係者から漏れ伝わってくる。
「なんであいつがあんなに報酬を取るんだ」。阪急HDの幹部が、腹立たしそうに語る。佐山氏が阪急HDから受け取る成功報酬は「30億円程度」と業界では言われている。阪急HDの阪神に対するTOB(株式公開買い付け)費用約2500億円の1~2%と推定されるからだ。
ただ、阪急HD側が、この報酬額について、減額交渉したという説もある。「佐山氏は、何もしていなかったじゃないか」(阪急HD幹部)という理由からだ。今回の交渉では、「佐山氏は、まったく役に立たなかった」という指摘もある。
村上ファンドによる阪神株の取得、阪急HDへの売却、阪急・阪神経営統合という一連の動きを見てきた関係者は「佐山氏がしたことといえば、せいぜい、村上氏に電話して『そろそろ売却してはどうか』と諭すくらいで、村上氏に翻弄されるばかりだった」と話す。その関係者によると、佐山氏は「もっと、買い取り価格を上げては」と阪急HD側を説得し始め、「どちらのアドバイザーなんだ」と言われる始末だったという。佐山氏には「有事」でのタフな交渉能力が低い、との見方もある。
さらに阪急HDの関係者の不興を買ったのがニュース番組への出演だった。M&A交渉の当事者の一人でありながら、村上ファンド問題についてテレビでコメントしていたからだ。
阪急HDの角和夫社長が村上氏との合意なしでの強行TOBを決意した5月末以降は、公の場で「代理人(佐山氏)には、村上とは交渉するなと言ってある」と言い放った。さすがに、角社長も「使えない」ことに気がついたようで、両者の関係は冷え込んでいるように見えた。「交渉が大詰めを迎え、関係者はピリピリしているのにせっせとテレビ出演をこなす佐山氏を見て、角社長はいらだっていた」(周辺関係者)という。
テレビへの出演に関しては、M&Aに詳しいある投資ファンドのマネージャーも「守秘義務のある財務アドバイザーは黒衣に徹するべきで、それが表舞台に出ては売名行為と受け取られても仕方ない」と見る。
そもそも佐山氏が阪急HDの財務アドバイザーになったのは今年1月。阪急HDの筆頭株主にプリヴェチューリッヒ企業再生グループが登場した際、角社長が独断で依頼したとされるが、実は佐山氏はその前に阪神側に「営業」をかけ、当初は阪神側の財務アドバイザー就任を狙っていた。しかし、阪神側は報酬の高さなどから断ったという。
佐山氏といえば、村上ファンドの投資先に、「アドバイザーにいかが」と、「営業」をかけていた。阪神以外では、百貨店の松坂屋もそうだった。
テレビや講演で佐山氏が「村上氏は、目先の利益だけ考えず、地域や国のことも考えるべきだ」などと村上氏の強欲ぶりを強調していたことに対し、村上ファンド関係者は忌々しそうに「じゃあ、あんたはいくら儲けるんだ」と反駁していた。
佐山氏は本誌の取材に応じ、「佐山批判」について反論した。やりとりは次の通り。
――報酬は30億円ですか。
「根も葉もない数字だが、阪神の時価総額が4千億円なので、その1%程度と推測したのでしょう。(一部雑誌に)書かれましたが、いちいち反論しても仕方ないと思っています。しかし、M&Aの報酬は億単位ですよ。1千万円や2千万円ではない。私個人ではなく、GCAとしてやった仕事です」
――報酬の高さの割に働きぶりがいまひとつという指摘もあります。
「いろいろなことを言う人がいるし、(阪急HDの)社内政治の話は分かりません。今回の仕事は、体操の演技に例えるなら9.95以上の点数を出した自信があります。19年間やっているけれども、こんなにしんどかったのは初めて。大企業のビジネスマンでは、村上さんとの『真剣勝負』はできない。いつ切られるか分からないのだから。村上さんとは毎日話し、角社長に報告していました。私の動きは角さんしか知りません。角さんにそう言われたのなら仕方ないが、絶対にそう思ってないと思います」
――M&Aのアドバイザーがテレビに出ることへの批判もありますが。
「3月に出演を約束していた4月から6月の番組に出ました。私はプロなので慎重にやっています。阪急、阪神の両社に断ったうえで出演し、番組でも阪急の財務アドバイザーをやっていると立場をはっきりさせていました。今回のような大きな案件だと、仕事を取られたと思った同業者がいろいろなことを言うのでしょうね。目立てば足を引っ張りたい人がいますから」
――有名旧国立大学の教授もしており、「看板」を利用していると見られませんか。先生という立場もあり、限度を超えていませんか。
「何をもって限度というのか知りませんが、教授会には最優先で出ていますし、一橋大のプレゼンスを高めるという意味でも問題ありません。教授会でも頑張ってくれと言われています」
阪急・阪神統合で「甘い蜜」を吸うことができたのは、佐山氏だけではない。阪神の財務アドバイザーは大和証券SMBCであるが、佐山氏が役に立たなかったからといって阪急HDがTOBで使った代理人も大和証券SMBCなのである。「完全に利益相反ではないか」とあきれる企業法務専門の弁護士もいる。
そもそも統合効果についても、見えぬままである。6月末の株主総会では、阪急HDの株主からの質問の大半は、930円のTOB価格や統合効果への疑問だった。角社長は「来年3月に中期経営計画を策定するまで、定量的な効果は示せない」との苦しい答弁に終始した。約2500億円の買い物の果実が、割引の共通化や、バス路線の再編程度では、あまりにもお粗末であり、阪急HDと阪神はM&Aビジネスに巣食う「魑魅魍魎(ちみもうりよう)」に「生き血」を吸われたと見られても仕方ない。