宇野USEN「救世主」の焦燥

「火中の栗」ライブドア株を拾ったが、光ファイバーの壁厚く、自慢のGyaOも広告伸び悩み。

2006年5月号 BUSINESS

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 USENの宇野康秀社長のジェントルでさわやかな表情の下には、ネット事業を思うように成長させることができない苦悩が満ちているに違いない。そんな苦悩を払いのけるように宇野社長は、また新たな“賭け”に打ってでた。

 フジテレビから総額約95億円でライブドア株12・7%を購入したのはご存じのとおり。いったん宇野社長個人で買い取ったうえで、資産査定後にUSENが引き取る見込みという異例の買い物である。

 ライブドア・グループの裏にどんな“地雷”が潜んでいるか知れず、「無謀ではないか」と疑問視する声をよそに、宇野社長は良い買い物であることをしきりと強調する。

「ポータル(玄関)サイトと金融部門を持つライブドアとは相乗効果が見込める」

「エンジニアや企画系に若くて優秀な人材が多い」

 そうだろうか。彼の賭けはこれが3度目。父から引き継いだ有線放送の会社をIT企業にすべく打った賭けの第一弾は、2001年に始めた光ファイバー事業だった。

 日本のブロードバンド(広帯域)時代を「有線ブロードネットワークス(当時の社名)の光ファイバーで拓く」──と華々しい花火とともに始めたインフラ事業が、いまやNTTや電力系事業者の攻勢にあい、当初の勢いは完全に失われている。

 宇野社長自身、インフラの巨人ゴリアテに立ち向かう青年ダビデの限界を感じたのか、光ファイバー部門売却に奔走していたことは、関係者の間では周知の事実である。

 その甲斐もなく買い手はつかなかった。やむなくインフラ事業と心中するハラをくくったのか、昨年11月にNTTの光ファイバーを借りてサービスを提供するメニューを追加した。ユーザーから見れば、企業向けの高額な光ファイバーしか存在しない時代に、月額数千円で提供すると勇猛果敢に挑んだUSENに拍手を送ったのに、あっさりタオルを投げられたようなもの。光ファイバーを選ぶ際、NTTと電力系以外にUSENという選択肢が残ったとはいえ、これでは釈然としない。

アクセスログを開示せず

 第二弾の賭けは、05年4月に始めたパソコン向け放送「GyaO」(ギャオ)である。インフラ事業に見切りをつけた宇野氏が、これからはコンテンツ(中身)の時代と、音楽大手のエイベックス、映画配給大手のギャガを傘下に収め、得られるコンテンツのノウハウを活かすべく始めたネット経由の完全無料放送なのだ。

 ユーザーは郵便番号、性別、メールアドレスなどの簡単な情報を提供し、登録すれば全番組を無料で視聴できる。サービス運営の原資は広告料金だから、民放地上波のビジネスモデルをそのままネットに持ち込んだようなものだ。

 GyaOのサイトには登録者数がデカデカと載っており、日々面白いように増えていく。3月末現在で850万人。この数字を、宇野社長はじめUSEN側はことあるごとに持ち出し、絶好調を強調する。

 だが、少し事情を知る者なら額面通り受け取る人などいない。プレゼント欲しさに一人で3つも4つも登録している連中はザラ。ある業界関係者は「ダブリを除くと実質2百万人。アクティブに見ている人は50万人程度では」と分析する。

 一方、広告を出すスポンサーは当初、GyaOのビジネスモデルに注目していた。既存の民放テレビの広告料金は、たかだか600世帯程度のサンプリングで視聴率をはじき出し、それをもとに高額な料金が決まるという“不条理”なもの。GyaOならネットの特質を活かし、登録時の属性情報を利用して費用対効果の高い1対1の宣伝を実施することも可能と考えたのだろう。

 実際、USENの側も「アクセスするユーザーの地域や属性に合わせたCMを選別して見せることができる」(菊地頼GyaO事業本部編成局長)ことをウリにしている。

 だが、そんなGyaO本来のメリットを押し殺すように、USENは広告主にアクセスログ(ネット経由でウェブサイトに接続してきた相手のドメイン名などの記録)を開示していない。ログを開示したとたん、850万人が水増しであることが露見するのを恐れているかのようだ。

 広告主からすると、口で「850万人です。効果あります」と言われても、おいそれと信用できるものではない。アクセスログという客観的な証拠を見て初めて費用対効果に納得するものだ。

 そんなUSENの姿勢だけに、最初はご祝儀気分で出稿していた広告主の中には、失望を隠さないところもあるという。放送開始から約1年が経過した今、番組数は増えているが、それに応じた広告が入っているとは言い難い状況だ。

広告枠無限も絵に描いた餅

 同じスポンサーの広告が繰り返し入ったり、番組中に他の番組の宣伝(番宣)が頻繁に入ることでもわかる。広告型放送にとって番宣を入れるのは、その部分の売上げをみすみす逃がすことを意味する。まして有料番組の番宣を入れるならまだ理解できるが、GyaOの番組はすべて無料。まさに広告枠が思うように埋まらないことの証といえよう。

 GyaOの広告数の伸び悩みは、大手広告代理店が既存のテレビ局に気兼ねして、GyaOのために積極的に動いていないことも影響している。実際、広告営業活動をしているのは、不法架線で電力会社とイタチごっこをやっていた「大阪有線放送」(USENの前身)時代から付き合いのある一部代理店だけなのだ。業を煮やしたUSENは、社内の広告営業体制を強化して直接営業で臨んでいるが、素人の寄せ集めではそれも限界がある。

 放送開始当初、GyaOのビジネスモデルについて、「テレビの広告枠は有限だが、VOD(ビデオ・オン・デマンド)型で提供するGyaOは無限ですから」と胸を張っていたが、広告がつかなければしょせん絵に描いた餅にすぎない。

 USENのビジネスモデルはどこかに無理がある。ブロードバンド普及でネットも「1対多」のマスメディア的性格を持つようになったとはいえ、梅田望夫氏の『ウェブ進化論』でいう「あちら側」の世界に、「こちら側」に属す地上波テレビの広告モデルや方法論をそのまま持ち込むことも、その無理の一つだろう。

 このまま広告が先細りになると、GyaOが大きなウリにしているメジャー感のある自主制作番組(ただし「ブロードバンドコンテンツにしては……」という注釈が付くが) の質の低下を招き、負のスパイラルに陥ることは想像に難くない。

 有線放送やカラオケの会社からIT企業への脱皮──宇野社長の「あすなろう」精神はいい。だが、光ファイバーもGyaOも前途はけっして明るくない。そこへライブドア出資という第三の賭け。それが虚勢でないことを祈るばかりだ。   

   

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