腰砕け「日本版ライドシェア」/なぜ「株式会社」参入はダメなのか/「交通弱者」の悲鳴が聞こえる!/政策アドバイザー・藤原豊

号外速報(12月28日 11:45)

2024年2月号 BUSINESS [号外速報]
by 藤原 豊(政策アドバイザー)

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「タクシー会社に限定」した日本版ライドシェア開始を決定したデジタル行財政改革会議で発言する岸田首相(12月20日、官邸HPより)

来年4月に始まる「タクシー会社限定」のライドシェア。

反対を続けたタクシー業界に任せて、地域の生活と経済を守れるのか?

まずは過疎地などの「地方」を優先し、直ちに抜本的対策を――。

「世界標準」とかけ離れた「日本版」

この夏から俄かに持ち上がった「ライドシェア」論議――。

結末は12月20日だった。政府は来年4月から、運行主体を「タクシー会社に限定」した措置、それも地域や時期・時間帯も限られるという「日本版ライドシェア」を開始することを決定した。

本来、ライドシェアのような新しい業態にしっかり対応するためには、諸外国と同様、「ライドシェア事業法」といった「新法の制定」が必要である。しかし、今回の措置は法改正を伴わない「現行法の運用」であるため、「日本版ライドシェア」はタクシー事業の一環として行われる。料金体系も供給台数も、基本的には現行制度の範囲内だ。

そもそも今回の政府決定では「ライドシェアはタクシーの補完」と位置付けられている。「日本版ライドシェア」はタクシー会社内で本業との利益相反を生み、国民に十分なサービスが提供されない可能性もある。

この「日本版」が、世に言われるライドシェア、すなわち成長産業として期待のかかる「世界標準」とは全く異なるものであることは、誰もが分かっている。

今回の政府決定の関係者は言う。「これはあくまで『第一弾』。新法についても『第二弾』として『来年6月に向けて議論を進めていく』と記載した」と――。

しかし、「新法制定」の「時期」はおろか「制定すること自体」も未決定、というのでは、規制改革としては不十分と言わざるを得ない。

地域において急増する「交通弱者」(高齢者や観光客など)の問題は深刻化の一途を辿る。まさに、待ったなしの緊急課題だ。

後述するが、以前からこの問題に関わってきた筆者から見て、今回の論議について特に心配な点が2つある。本稿では、これらを指摘するとともに、この問題の進め方についても私案を提示したい。

率先してやる気がないタクシー会社

いったんは「株式会社の参入を認める」と、筆者に約束してくれた国土交通省……

言うまでもなく、「交通弱者」問題に対して、タクシー会社の果たす役割は大きい。今回の政府決定にある2種免許関係などの「タクシーに関する規制緩和」も、安全性の確保を前提に一層進めるべきであるが、一方でタクシー業界には、4月からの「日本版ライドシェア」にも積極的に取り組んでもらわねばならない。

しかし、私が心配するのは、「タクシー会社は、本当にこの事業を重視し、率先してやろうとしているのか」という点である。これまでの政府会議での議論を見る限り、タクシー業界の代表者は一貫して「ライドシェア」に反対の立場であった。

最近の新聞のインタビュー記事でも、「タクシー会社限定措置」について、「タクシー会社の事業として成り立つのか。バスのように補助金を入れるなど、少なくとも事業性を確保してもらわなければいけない」と、受け身の姿勢を崩していないように見える。

信じたくはないが、もし仮に、政府があまり乗り気でないタクシー業界に無理を言って、ないしは頭を下げて、4月からの事業を引き受けてもらおうとしているのなら、「日本版ライドシェア」は、この急を要する問題の解決策として十分に機能しない可能性がある。

むしろ、やる気のある「他の事業者」や、それを支える「自治体」を優先し、彼らに真っ先にこの問題に取り組んでもらうのが本筋だ。

 今回の「ライドシェア」を巡る議論の中で、熱意と覚悟を持って具体的提案をしてきた事業者は多くなかったと聞く。事業者にとっては、様々な事情から、この問題について声を上げることは難しいということも理解する。Uberですら、福岡市での実証事業が中止された2015年頃から暫くの間、日本での参入に向けた具体的な動きはなかった。

それでも私の知る限り、ごく少数ながら「国の制度を変えてまで、地域住民の生活や地域経済を守るために、やりたい事業を実現したい」と真剣に考え、声を上げている「自治体」は存在する。

前稿(本誌2023年6月号)の「小泉・宮内『特区』誕生秘話」でも述べた通り、規制改革は、こうした志の高い「提案者」の「具体的提案」があってこそ進む。霞が関の会議室での机上の議論だけでなく、自治体などからの「現場の具体的ニーズ」の一つ一つに謙虚に耳を傾け、実現を図っていく――。政府関係者には、もう一度、こうした「提案者ファースト」の立場を思い出してもらいたい。

猛暑の中でタクシーを待ち続ける高齢者

もう一つの心配は「スピード感」である。4月からの「第一弾」の効果が不透明であれば尚更だが、「第二弾」の新法制定について、「6月に向けて議論」などと言っている場合ではない。

来年4月からの「日本版ライドシェア」で、夏の時期などを乗り切れるのだろうか――。

今年の夏の地方都市では猛暑の中、駅前でタクシーを待つ住民や観光客の長い列を何度も見た。ライドシェア反対派は「ライドシェアは危険だ」と頻繁に主張するが、猛暑の中で長時間タクシーを待ち続ける高齢者の健康状態も、相当危険である。

もちろん、「第二弾」の新法制定には一定の時間を要する。そうであれば、「第一弾」を「タクシー会社限定措置」とするだけでなく、別の道も検討できないだろうか。

この「交通弱者」問題は、「都市部」と「地方」で事情が大きく異なる。そして、問題の深刻化のスピードが速いのは、間違いなく「地方」、それも過疎地だ。住民の高齢化によって、ドライバー不足と「交通弱者」急増のギャップがより拡がっているからだ。

まずは「第一弾」として、「地方」に特化・集中した総合的対策を、今からでも直ちに検討し、速やかに実行すべきではないだろうか。

「交通弱者」対策で、最も先進的な取組を行っている地域の一つが、兵庫県の養父(やぶ)市である。養父市について一言で言えば、農業分野を始めとする数々の岩盤規制改革を実現してきた、言わば「改革の聖地」だ。

その詳細は、拙稿<「新規事業のパートナー」としての地方自治体の選び方>

https://frontier-eyes.online/new-business_local-government/

をご覧いただきたい。

「地域公共交通会議の合意要件」の障壁

養父市を走る自家用有償旅客運送車「やぶくる」(写真/筆者提供)

今回のライドシェア論議の中で、多くのメディアが、養父市が2018年から行っている「やぶくる」という「自家用自動車有償運送」を取り上げた。

この「自家用自動車有償運送」制度とは、交通空白地での移動手段を確保するため、「NPOなどの非営利法人」による自家用車の活用ができる仕組みである。

様々な制約はあるものの、事業主体として「タクシー以外の事業者」が認められている点で、重要な意味を持つ制度だ。もともとは小泉政権時代の構造改革特区でできた制度だが、その後全国に展開され、今では600を超える事業者が活用している。

しかし、養父市の「やぶくる」が、他の地域における通常の「自家用自動車有償運送」とは異なり、日本で唯一の「一歩進んだ形」となっていることは、あまり報じられていない。

今から約8年前の2016年春――。既に国家戦略特区に指定されていた養父市の広瀬栄市長は、当時内閣府の担当だった筆者に、大胆な規制改革提案を持ち込んできた。それが、この「観光客も対象とした自家用車の活用拡大」という事業だった。養父市のような過疎地では、当時から既に「交通弱者」問題は深刻だったのである。

私はこの提案を受け、国交省の幹部との折衝を繰り返した。論点は①地域ごとに設置される「地域公共交通会議」の「合意」を得なくても事業実施を可能とすること、②NPOなどの非営利団体だけでなく「株式会社の参入を解禁」すること、の2点であった。

特に①の「地域公共交通会議の合意要件」については、地域のタクシー会社がメンバーになっていることもあり、新規事業者の参入や自由な活動を阻害する可能性が以前から指摘されていた。

これを撤廃することで、養父市の新しい事業者は、既存のタクシー会社の合意を得なくても、言わば「同列の立場」で事業を行えることになる。私は、この点が最も重要だと考えた。

交渉は難航したが、いったん国交省は、これら2点を認めると約束してくれた。最終的には、養父市が当面の事業をNPO主体で行うことにしたこともあり②は見送られたが、それでも①が認められたことは大きな成果となった。その後、法案は国会を通過し、「やぶくる」は実現した。

余談だが、先月国会中継を見ていると、野党議員が「ライドシェア反対」の立場から政府に対して厳しい質問をしていた。議員の主張の柱は「地域公共交通会議の重要性」だった――。規制改革行政に長く携わっていると面白いことに気付く。規制改革に反対する人は、最も改革されたくない点、すなわち「規制改革のポイント」を自ら明らかにしてくれるのである。8年前に養父市が突破した、この「地域公共交通会議の合意要件の撤廃」こそが、タクシー以外の事業者の自由度を向上させるという意味で、やはり大事なポイントなのだと改めて感じた。

広瀬市長が河野大臣に直談判したが……

兵庫県養父市で「やぶくる」を視察する河野太郎担当大臣(11月7日、本人のXより)

11月初旬、河野担当大臣が養父市を訪問し、この「やぶくる」事業を視察した。この時、広瀬市長は、8年前からの積み残しとなっている、前述の「株式会社の参入解禁」を提案した。市長は、外資系企業の誘致や、地元のタクシー会社のライドシェア事業者への転業の可能性なども視野に入れていた。

しかし、残念ながら河野大臣の返答は慎重なものだったようだ。

今回の政府決定には、「自家用自動車有償運送」についても幾つかの改善措置が挙げられているが、この「株式会社の参入解禁」は認められていない。政府決定の2か月近く前から既にその方針が決まっていたとすれば、とても残念である。

なお、政府決定では、株式会社は自ら事業主体として参入はできないが、「NPOなどの事業の受託はできる」ことになった。しかし、これでは不十分である。なぜ、事業主体として、NPOがよくて株式会社がダメなのか、果たして合理的な理由があるのだろうか。

繰り返しになるが、こうした養父市からの「株式会社の参入解禁」のような、「たった一つの、しかし、とても重要な提案」を政府は真摯に取り上げ、早急に実現してほしい。これが実現すれば自由度の高い民間事業者が地方に生まれ、さらに特区を超えて全国の地方都市に拡がれば、相当な効果が期待できるはずである。

「熱意のある地方自治体」の提案を実現せよ!

本来、地域の「交通弱者」問題の解決には、ライドシェア以外にも、様々な方策がある。やる気のあるタクシー会社に頼るのも一案だし、外国人の多い地域であれば、外国人ドライバーの活用を検討してもよいだろう。

しかし、どうしても「自家用車の活用」という手法を中心にして、是が非でもこの問題を解決したいという自治体があれば、彼らに対して政府が思い切った規制改革措置を集中して提供する――そのような取り組みが今こそ必要ではないだろうか。

まずは、より問題の深刻な、過疎地を含めた「地方」を優先し、それに特化した総合的対策を講じる。養父市の言う「自家用自動車有償運送への株式会社の参入解禁」は法改正の必要はなく国交省の省令で対応できるが、例えば特区法なども活用し、「自家用自動車有償運送」の抜本的強化を検討すべきではないか。前稿でも述べたが、特区法はスピーディーな改革を進めるための法律であり、頻繁に改正されることで、多くの改革ニーズに迅速に対応できる。

年明けから始まる次期通常国会は6月まで続く。この国会に「地方の交通弱者対策」の関連法案を「第一弾」として提出する。そして、それを速やかに「第二弾」の「都市部も含めた全国規模のライドシェア新法」に繋げていく。

地方の「交通弱者の生の声」と、それを代弁する「自治体の規制改革提案」――。これらを最大限尊重した、今後の政府の取り組みに期待したい。

著者プロフィール
藤原 豊

藤原 豊(ふじわら ゆたか)

政策アドバイザー

東大経済学部卒。経産省退官後は、楽天グループをはじめ、セブン&アイホールディングスやフロンティアマネジメントなどの企業、財団、自治体のアドバイザーや社外役員を務める。

   

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