購読料値上げ 「新聞部数減」更に膨張

日経は2カ月で朝夕刊合わせ19万部マイナス、「据え置き」の読売も減少止まらず、「2025年の崖」が迫る。

2023年11月号 LIFE [「紙」依存症]
by 井坂公明(メディア激動研究所所長)

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用紙代の高騰に伴う新聞購読料値上げの動きは、今年4月以降、読売新聞を除く4つの全国紙と19の県紙クラスの地方紙に広がっているが、その影響が早くも部数の減少という形で表れ始めた。特に目立つのが7月から値上げした日経新聞で、社告が出た6月から7月までの1カ月間で朝刊が9万4千部、夕刊が6万4千部も減った。6月に引き上げた毎日新聞も5月から6月にかけて朝刊が8万7千部以上減少した。今回は値上げを見送った読売新聞も4月から8月にかけて朝刊が15万部近いマイナスとなり、新聞業界全体の部数減の流れから脱することはできていない。

また、用紙代値上げへの対応策として夕刊の発行を取りやめる新聞が相次ぎ、3月末の静岡新聞に続き、北海道新聞と信濃毎日新聞が9月末で夕刊を廃止した。全国紙でも既に毎日新聞が3月末、朝日新聞が4月末に、それぞれ愛知、岐阜、三重の中部3県で夕刊をなくしている。朝日新聞関係者によると、同新聞は北海道内では夕刊の印刷と配達を北海道新聞に委託しているため、その夕刊廃止に伴い近く夕刊をやめる方針だという。

23紙が値上げ、「据え置き」表明5紙

「向こう1年間、値上げしない」と社告を出した読売新聞も部数減が止まらない(東京・大手町の読売新聞グループ本社)

4月以降に値上げに踏み切った全国紙と県紙クラスの地方紙は、神奈川(4月1日)をはじめ、朝日、西日本(以上5月1日)、毎日(6月1日)、日経、神戸、福島民報、福島民友、デーリー東北(以上7月1日)、産経、中国、東奥日報、岩手日報、秋田魁、山陰中央(以上8月1日)、信濃毎日、山梨日日、上毛、下野、茨城、四国(以上10月1日)、京都(11月1日)の22新聞。上げ幅は、全国紙は朝夕刊セットで500~600円、11.4~14.0%、朝刊単独で500~800円、14.3~20.0%。地方紙も朝夕刊セット(西日本、神戸、京都)は500円、11.4%、朝刊単独は311~600円、9.8~18.2%で、値上げ率はほぼ2桁台に乗った。このほか、4月から夕刊を廃止した静岡新聞は、廃止後の朝刊購読料が廃止前の朝夕刊セット価格(月額3300円)と変わらないため実質的な値上げと言える(表参照)。

これに対し、読売、新潟日報、佐賀、北國(朝刊1部売りのみ値上げ)、沖縄タイムス(1部売りのみ値上げ)の5新聞は、社告や社長あいさつなどの形で、購読料を当面据え置く方針を明らかにしている。

日本ABC協会の調べによると、日経新聞の7月の朝刊の販売部数(以下部数)は147万3712部と、前月に比べ9万4469部も減少した。わずか1カ月間で6.0%のマイナスは異例と言えよう。前回の値上げ(2017年11月)の際、17年10月から11月にかけて朝刊が約24万部も減ったことを想起させる。また、今年7月の夕刊部数も64万3652部と、前月比で6万4561部、9.1%もの低下となった。8月には朝刊は前月比で1万3千部ほど持ち直したものの、夕刊はさらに約4万6千部減らした。

日経新聞は今回の値上げに際し、6月までの朝夕刊セット価格よりも安い「朝刊単独」プランを新設し、夕刊を犠牲にしてでも朝刊を守る方針を打ち出していた(本誌8月号参照)。しかし、7、8月を通した結果を見ると、朝刊は約8万部、夕刊は11万部の大幅なマイナスとなり、狙い通りの成果は出せていないように見える。ただ、他の全国紙や有力地方紙の販売関係者の間では、日経新聞が値上げに合わせる形でいわゆる「押し紙」を一定程度減らしているのではないかとの見方も囁かれている。押し紙の減少分と値上げによる部数減の割合などは社外からはうかがい知れないという。一方、日経電子版の7月の有料会員は87万3929人と、1月時点より約5万人の増加となった。

毎日新聞の6月の朝刊部数は168万5554部で、前月に比べ8万7484部のマイナス。7月、8月もさらに減り、5月(177万3038部)から8月(164万3672部)までの3カ月間で約13万部の減少となった。夕刊部数も3月末に中部3県で廃止したことなどが響き、3月から8月にかけて5万7千部の低下となった。

相次ぐ夕刊廃止、合計125万部減

わずか2カ月で朝夕刊合わせて19万部減の日本経済新聞(東京・大手町の東京本社)

5月から購読料を引き上げた朝日新聞は、4月末に中部3県で夕刊を廃止したことも手伝って、5月の夕刊部数が111万5200部と、前月比8万974部、6.8%の大幅減に。4月から8月(106万2418部)までの4カ月間では13万部を超えるマイナスとなった。また、8月の朝刊部数は360万8346部で、4月(375万1331部)からの4カ月間で14万部超減った。8月から値上げした産経新聞は、8月の朝刊部数が92万892部と前月に比べ3万部、3.2%のマイナスとなった。

3月25日付朝刊1面に「少なくとも向こう1年間、値上げしない」との異例の社告を掲載した読売新聞も部数減は止まらず、8月の朝刊部数は626万4283部と、4月(641万2833部)以降の4カ月間で15万部近いマイナスとなった。業界紙「新聞之新聞」によると、山口寿一グループ本社社長は7月14日の同社販売店所長らの集まりで「値上げとなれば、読者は必ず反応します。価格を据え置いて夕刊をやめてもやはり反応します」と述べた上で、「今年は大勝負の年と申し上げております。ライバル紙が値上げをする中で、価格を据え置いて、少しでも多くの読者を取り込むのが勝負の眼目です」とハッパを掛けた。しかし、部数増には至っていない。値上げした地方紙関係者は「(解約した読者が)据え置いた他紙に流れるケースはあまりなく、経済状態から購読を停止して無読者になる傾向が強い」と分析する。

全国紙5紙全体で見ると、今年1月から8月までの7カ月間で朝刊が約1475万部から約1392万部へと82万6千部、5.6%減少した。前年同期は約87万4千部、5.4%のマイナスだったので減少率は拡大している。これに対し、中日新聞や北海道新聞、西日本新聞、河北新報、中国新聞など主要な地方紙(県紙クラス)23紙の朝刊の8月の合計は885万部余りと、1月の907万部弱から21万7千部、2.4%のマイナス(前年同期は18万8千部、2・0%減)で、全国紙に比べると減り方はまだ緩やかだ。

地方紙の中で現在のところ購読料を据え置いている中日新聞も8月の朝刊部数は183万457部で1月に比べ1万9千部減っている。結局「値上げをしてもしなくても、新聞各社の部数は落ち続けている」(別の地方紙関係者)というのが実態だろう。新聞業界関係者によると、部数減には現在①何もしなくても減る「通常の減」、②値上げによる減、③押し紙の整理による減の3種類あるという。

昨年までは主に朝刊の部数減が話題となってきたが、夕刊の部数も大幅に減っているのが今年の特徴だ。夕刊廃止により静岡新聞が53万部、北海道新聞が23万2千部ほど、信濃毎日新聞が1万7千部程度のそれぞれ減。朝日新聞と毎日新聞も中部3県での夕刊廃止でそれぞれ3万9千部、1万4千部を失った。これに加え、購読料値上げなどに伴い日経新聞や朝日新聞、毎日新聞を中心に夕刊離れが目立つ。全国紙だけで今年1月(5紙合計で435万4143部)から8月(394万4289部)までの間に41万部弱、9.4%の夕刊が消えている。地方紙も合わせると、失われた夕刊は10月1日の段階で125万部程度に達するとみられる。

今回の一連の購読料引き上げの主因は、昨年末から今春にかけての製紙業界による新聞用紙代の3~4割という大幅値上げにある。しかし、紙代が高くなるなら、紙に代わる媒体に転換する好機だと捉えることもできよう。新聞業界に活力があった20世紀の頃ならそうした発想も出てきたのかもしれないが、今は日経新聞など一部を除き前向きな考え方はあまり見られない。

日経除き値上げ後の戦略なし

値上げで失う読者をどうやって取り戻すのか。日経新聞の6月9日付朝刊の社告からは紙の読者を日経電子版へ誘導しようという意図が透けて見える。朝夕刊セットを月額4900円から5500円に、朝刊のみを4000円から4800円にそれぞれ引き上げる一方、日経電子版は据え置いた。社告では「日経電子版の月ぎめ購読料は4277円に据え置きながら映像コンテンツの充実やニュースの強化に努めます」と朝夕刊セットとの価格差が1200円以上に拡大することをアピールしている。

これに対し、朝日新聞は朝夕刊セットを4400円から4900円、朝刊のみ(統合版)を3500円から4000円にそれぞれ値上げしたが、社告(4月5日付朝刊)では朝日新聞デジタルに関しては「デジタルを紙面と並ぶ両輪と位置づけています。新聞をご購読の方は追加料金なしで、紙面ビューアーを使えます。デジタルのみの購読プランもお選びいただけます」と記しているだけだ。実は朝日新聞デジタルは、紙面ビューアーも使えるプレミアムコース(月額3800円)、有料記事が無制限に読めるスタンダードコース(1980円)、有料記事が月50本まで読めるベーシックコース(980円)とも据え置きとなった。スタンダードコースは朝夕刊セットに比べ3千円近く安い。しかし、社告ではデジタル版の据え置きについては全く触れていない。新聞販売店などへの配慮から具体的な言及を避けた可能性が高い。毎日新聞も5月11日付朝刊の社告では、やはり毎日新聞デジタルの据え置き(プレミアムプラン3520円、スタンダードプラン1078円)には触れていない。

購読料値上げにより一時的に売り上げは増えるものの、部数が減っていけばそれも消えていく。値上げはあくまで一時しのぎの策に過ぎない。新聞業界の中には、全国紙で今残っている読者は「固定層(ファン層)」なので、値上げしても他紙へ流れたり購読をやめたりする人はあまりいないと指摘する人もいる。しかし仮にそれが正しくても、主力である70代、60代後半の読者がさらに高齢化していけば、その「固定層」自体が新聞市場から退出していくことになる。団塊の世代が全員後期高齢者になる「2025年の崖」も間近に迫る中、紙媒体に依存する新聞社が生き残る道はますます細く険しくなってきた。

著者プロフィール

井坂公明

メディア激動研究所所長

   

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