連載コラム:「某月風紋」

2023年10月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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東京・千代田区にあるみずほ銀行内幸町本部ビル(旧第一勧銀本店ビル)が解体されている。日本建設業連合会のBCS賞も受賞した見事なビルで、若いころはよく仰ぎ見た。竣工からまだ42年しか経っていない。

赤坂エクセルホテル東急は8月末で営業を終了し、中野サンプラザも7月に閉館となった。それぞれオープンから54年と50年。完成時には日本一の高さを誇った浜松町の世界貿易センタービルは51年しか使われず解体され、もはや跡形もない。

「老朽化した」とか「耐震性能に問題がある」とか理屈をつけてはいるが、要は建て替えればもっと稼げるビルになるということだ。国や東京都がそうした再開発を後押ししている。都市再生特別地区や国家戦略特区に指定し、容積率を緩和すればより多くの賃料収入が見込める。関係する業界も潤う。

省エネビルは地球温暖化防止に役立つと主張する向きもあるが、これだけコンクリートや鉄を廃棄し、新たに資材を使うのだからそんなはずはない。

実際、ビルの温室効果ガス排出量について、8月下旬に東京財団が開いたシンポジウムで早稲田大学の田辺新一教授は「アップフロントカーボンがかなり大きな割合を占める」と話していた。これは原材料の調達や輸送、建築時に発生する二酸化炭素(CO2)のこと。脱炭素を目指すなら、ビルの使用時と解体も含めた「エンボディドカーボン」で評価しなければならない。

一つのビルを100年使うのか、それとも50年で建て替えるのか。どちらが地球環境にやさしいかは明白に思える。ヨーロッパに限らず、海外では築200年300年の建築物がザラにある。もちろん、日本と違って地震が少ないという事情はあるが、規制が強かったり「既存不適格」で建て替えられなかったりして、使い続ける例もあると聞く。日本もできるだけ大事に長く使う文化になってほしい。

(ガルテナー)

   

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