連載コラム:「某月風紋」

2023年7月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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国の重要文化財である石造りの外壁に覆われた、日銀旧館沿いの緑の並木道に列を作っている修学旅行の中学生の生徒たちの白いワイシャツとセーラー服がまぶしい。旧館の向かいにある「貨幣博物館」の入り口に生徒たちは吸い込まれていく。24年度上期にも発行される新1万円、5千円、千円の日銀券の展示もあって人気を呼んでいる。

新日銀券の偽造防止策は、世界初の3Dホログラム、高精度の透かし。偽造と刑罰の歴史は、最古の通貨である和同開珎(708年)から始まった。早くも4年後には偽造した者は斬刑、家族も遠島となった。

スマートフォンのアプリによる電子決済の時代を迎えた時代に新日銀券は登場する。スマホがあれば支払いに困ることはない。若者たちは、成人年齢が18歳となってクレジットカードを保護者の同意なく作れる。あとはアプリに紐づけるだけだ。

ハッキングこそ偽造よりも通貨制度を揺るがしている。主要7カ国(G7)の財務省・中央銀行総裁会議は5月、北朝鮮を念頭に置いて「国家主体による不正な活動による脅威の、高まり」を共同声明に明記した。米政府は北朝鮮のハッキングによる収入は国全体の5割に及ぶとみる。同国のハッカー集団が17年以降奪取した金額は約980億円に及び、日本は全体の3割を占めて最悪の被害国である。

『ラザルス』(草思社刊)は英国のジャーナリストのジェフ・ホワイトが、セキュリティ研究者が北朝鮮のハッカーグループに名付けたその犯行を追った。

仮想通貨の発行会社のコンピューターにウイルスを忍び込ませて、金融機関に設けた口座に自動的に振り込ませる。顧客の個人情報も抜き取って、キャッシュディスペンサーを使って引き出す。「北朝鮮が関係するとされるサイバー攻撃を知ることは、現代の犯罪世界を理解することでもある」と、ホワイトは警告する。

(河舟遊)

   

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