連載コラム:「某月風紋」

2023年1月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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JAEA傘下の「廃炉環境国際共同研究センター」

福島県の太平洋岸の浜通り地域から、西側に連なる阿武隈山地は雪に覆われている。

冬用タイヤに履き替えることを促す看板が見えてくると、福島第2原子力発電所(2F)が立地する、富岡町である。

町の施設を会場にして、福島第1原子力発電所(1F)の廃炉に関するシンポジウムが開かれたのは、2022年12月初旬。国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)が主催した。

同時に、会場近くにある機構傘下の「廃炉環境国際共同研究センター」の施設が公開され、研究者らが来訪者に説明を行った。

「はいろみち」――。1Fが廃炉に向けた情報を発信している広報誌のタイトルに倣って呟くなら「廃炉道は遠く険しい」。しかし、その頂上はうっすらと見えてきたのではないか。

工学の世界では、理論とその実践との間には「死の谷」がある。数多くの実験を繰り返して、実用化の可能性を探る。

JAEA主催のシンポジウム(22年12月初旬)

光ファイバー技術を発明した、西澤潤一博士から、筆者が直接うかがった工学の本質である。「工学の研究者はね、実験に必要とあれば、水道工事もするんですよ」と。

メルトダウンによって、炉中に溶け落ちた「デブリ」は、どのような種類の核物質を含み、どのように分布しているのか。光ファイバーの先端を炉内に入れて、分光器で分析すると、核物質を色別できる技術が開発されている。デブリを取り出すためのロボットは、高放射線下の作業のために、アームの長さが20mにも及ぶ。

廃炉道は1F固有の問題ではない。「ふげん」と「もんじゅ」の廃止とも関係する。米国が長崎に投下した「プルトニウム型原子爆弾」の材料を製造したハンフォードや英国の核燃料再処理工場のセラフィールドの解体も、同様の課題を抱える。米英仏の研究者が1Fの廃炉の研究に加わっている所以である。

(河舟遊)

   

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