参議院自民党幹事長 世耕 弘成氏(聞き手/編集長 宮嶋巌)

日本こそ世界の分断を回避する「つなぎ役」

2023年1月号 POLITICS [リーダーに聞く!]

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1962年生まれ。早大政経卒。98年参院初当選(通算5期)。内閣官房副長官、経済産業大臣を歴任。祖父は近畿大学創設者の世耕弘一氏(元経済企画庁長官)。2019年9月より現職。

――今年をどう回顧しますか。

世耕 変動、不確実、複雑、曖昧の英語の頭文字をつなげた*VUCAと言う造語をよく耳にするようになりました。私が危惧するのは国際社会で、或いは各国国内で分断が深まっていることです。大震災の時に絆の強さで世界を驚嘆させた日本も例外ではありません。最近の調査では、自分が中流より下の生活をしていると答えた人が56%も――。物価上昇は所得の低い人々を直撃し、社会の分断を加速しかねない。世界不況の懸念が高まり、民のかまどは一層厳しくなるかもしれません。政治の危機感こそが問われています。

――日本はまだしも、国際的な分断が一層深まっています。

世耕 「世界は一つ」という理念は雲散し、価値観が違う国・地域が別々に生きていくようになった。世界の分断が深まったのは、ネットの影響が大きい。ネットの技術には分断を加速させるメカニズムが組み込まれているからです。私はタブレットで幅広い情報を集めるように心掛けていますが、Cookie(クッキー)を完全にリセットしたタブレットで同じアプリを開いてみたら、まるで別世界のスポーツ・エンタメ情報が溢れていました。ユーザーの興味に合わせてパソコンが自動的に情報を取捨選択し、自分好みの情報に包まれる「フィルターバブル」に陥ると、偏った情報や考え方に影響され、社会の分断が加速するようです。米国で赤(共和党)と青(民主党)の分断が顕著になったのはクリントンがトランプに敗れた2016年の大統領選からです。Twitterの分析ツールによると赤と青の中間の黄が減り、ネットの利用が世論の二極化を促し、分断が加速したのです。

――安倍元総理の国葬儀が分断を招いたとの批判があります。

世耕 元総理は憲政史上最も長く内閣総理大臣を務められ、その地位に対する敬意として国葬を行うことは適切だったと思うし、国際的にも常識の範囲内です。とはいえ、国葬を行うに当たっては、党派を超えたコンセンサス形成の努力が必要でした。

私は元総理に官房副長官、経産相として7年余りお仕えしたが、安倍先生は「分断の逆」、まさに保守とリベラルをつなぐ役割を果たしたリーダーでした。例えば日韓両政府が慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した2015年の合意。「この辺で納得しないとまとまらない」と、反発する保守を説き伏せた。世間からは左に振ったと見られがちだが、実際は真ん中より少し右に落として、リベラルも収まるようにした。保守を納得させ社会の分断を回避するのが自らの役割という自覚を持った、すごい現実主義者でした。また、安倍先生が各国首脳からリスペクトされた最大の理由は、誰も言及しなかった10年以上前から、中国の力による現状変更の脅威を訴え続けたからです。

――中国は世界の分断要因!

世耕 日本の役割は重要です。特に日本はアジアにおける自由、民主主義の旗手として安全保障でも経済でも毅然たる態度を示し、先頭に立つべきです。ドーハの日本人サポーターの清掃活動やロッカールームに残された折り鶴は、強引な理屈と威圧的な態度で自国の利益を押し通す中国との違いを浮き彫りにした面があります。元総理の首脳会談に200回以上同席した私は、日本がしっかりしていれば、アジア諸国は日本と行動を共にしてくれるという確信を持っています。社会の分断は日本に似合わない。日本こそが人間の品位を持って国内の分断を乗り越え、世界の分断を回避する「つなぎ役」になるべきだと考えています。

(聞き手/本誌編集長 宮嶋巌)

   

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