美の来歴㉓:黄昏ゆくヴェネツィア

文豪ゲーテが酔った仮面劇とある〈山師〉の足跡

2021年6月号 LIFE [美の来歴]

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ジョヴァンニ・ドメニコ・ティエポロの『メヌエット(カーニバルの光景)』は、鮮やかな黄色のデコルテで着飾った若い女性を中心に、黒いアイマスクや仮面で装った男女が入り乱れて踊るヴェネツィアのカーニバルの一場面を描いている。いまや真冬の名物となったこのお祭りは、ヴェネツィアが古都アクイレイアとの戦いに勝った1162年にはじまり、春先までの一定期間に限って人々は思い思いの衣装に仮面をつけて振る舞うことが許された。各地から集まった人々が身分や階級を超えて匿名の演者になり、束の間の熱狂に身を委ねる空間は、東方との交易で富を集めた千年の海の都の華やかな遺産である。*1786年9月28日、ドイツの文豪ゲーテはブレンタ河を乗合船で下り、初めてヴェネツィアの地を踏んだ。37歳、『若きウェルテルの悩み』で一世を風靡した作家はワイマール公国の法律顧問や廷臣の仕事が重荷とな ………

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