「核のゴミ」寿都町長の意外な評価

風力発電の有名町長が処分場に名乗り。厳しい町財政が背景。経産省の影もちらつく。

2020年10月号 BUSINESS

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片岡町長(右)は鈴木知事に「条例が法律の上に行くことはあり得ない」と諭した

Photo:Jiji Press

札幌から車で2時間超。北海道の日本海側、人口3千人弱の町が突如、この夏、全国ニュースの舞台になった。原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場選定の第一段階となる文献調査に応募を検討していると報じられたのだ。

「ダークサイドに落ちた」

寿都町長の片岡春雄はエネルギー業界でかなり名の通った人物だ。町職員時代の1989年に自治体が運営する風力発電所を全国で初めて稼働。現在は11基を運転しており、町の年間売電収入は7億円近くになる。旧民主党政権時代に作られた再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の対象に既存施設を含めるよう、日夜のロビー活動で制度変更を実現させた実行力は今も業界の語り草だ。現在は風力発電推進市町村全国協議会の会長も務めている。

東京の大学を卒業後、民間企業のセールスマンを務めていた異色の経歴の持ち主だ。町職員から2001年に町長に初当選すると、稼ぐ町政を目指し、次々に風車を建て、発電所の規模を拡大していった。周辺からは「風力で評価を得ていたはずの町長がなぜ、核のゴミなのか。ダークサイドに落ちてしまったよう」と突然の判断をいぶかる声も上がる。

ただ町財政をひもとくとその台所事情は厳しく、風力で稼ぐ町の別の姿もみえてくる。総務省が公表している最新の18年度の町財政データによると、財政規模に占める借金返済の割合を示す「実質公債費比率」は13.6%。全国の町村平均(7.7%)と比べて大幅に高い。

過去をさかのぼってみると13、14年度の2年間、この比率は18%を超えていた。風力発電の投資負担が町の財政規模に見合わなくなってきたのだ。

18%を超えると地方債の発行が道知事の許可なしにはできなくなる。町が主体性を持って財政運営できなくなる危機に陥ったとき、片岡が新たな増収策として飛びついたのが「ふるさと納税」だった。

寿都町がふるさと納税に本格的に取り組んだのは15年度から。14年度にわずか7万円だった寄付額は、ウニやイクラ、ホタテなど北海道の魅力的な海産物を次々ラインアップすることで急増。15年度に2億円、16年度に7億円と規模を拡大し、19年度は町税収入の4倍近い11億円超を集めた。寄付額を増やすことで、今はなんとか財政を持ち直している状態だ。

もっとも、毎年度の収入が見通せないふるさと納税頼みの町財政のリスクは高い。加えて、これまで稼いできた既存の風力発電機は次々に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の対象から外れる。高額な売電単価は維持できなくなるため、売電収入も今後、目減りが見込まれている。このため町は新たに2基の風力発電機の建設計画を進めているが、初期投資には億円単位の負担が生じる。

片岡は当初、約2年の文献調査への応募検討の理由として、真っ先に応募した自治体が得られる最大年10億円の交付金の存在を挙げていた。今後の苦しい町財政を踏まえれば、2年で20億円の存在はより大きく映ったに違いない。

核のゴミの最終処分場を巡っては、電力会社が出資する原子力発電環境整備機構(NUMO)が02年から全国の自治体に候補地への応募を呼びかけている。以来18年、第一段階となる文献調査への応募は、交付金額が年2.1億円から10億円に引き上げられた07年、高知県東洋町のたった1例しかない。このときは当時の高知県知事、橋本大二郎が即座に反対を表明。応募後に町を二分する激しい応酬となり、当時の町長、田嶋裕起は辞職。出直し町長選で反対派候補が得票率7割の圧勝で田嶋を下し、応募を即座に撤回した経緯がある。

それ以来となる、具体的な応募の動き。今度も東洋町の二の舞いかとおもいきや、寿都町を訪ねてみると、どうも町の中は「反片岡」が支配的という雰囲気ではないのだ。

したたかな「噛ませ犬」

01年以来、町長の座にいる片岡だが、実は選挙の洗礼を浴びたのは初当選の時だけ。2選目以降は対立候補が不在で、すべて無投票で再選されている。そんな片岡のことを「ワンマンで人の話を聞かない。町の独裁者」と吐き捨てる町民も一定数はいる。ただ、その一方で、文献調査への応募という片岡の選択について、意外なほど多くの町民から支持する声が聞かれるのだ。

当初は応募検討の理由として、交付金の存在を優先させてきた片岡だが、自民党推薦で当選したはずの道知事、鈴木直道が「(核のゴミの)持ち込みは受け入れがたい」と明記した20年前の道条例を盾に反対する意向を鮮明にすると、対決姿勢も鮮明にし始める。3日、町を訪れた鈴木との公開会談では「条例が法律の上に行くことはあり得ない話」と39歳の青年知事を諭すかのような場面もあった。

片岡をよく知る関係者は、未解決のままずっと先送りされ続ける核のゴミ問題に対し、10年以上前から「もっと国民的な議論が必要。国が決めるべきことを決めないことが不幸だ」と訴え続けていたという。数年前に肺癌を患い、満身創痍であることも、重要課題から逃げ、先送りし続ける中央政治への不満を増幅させ、自らの手で議論を進めなければと考えさせた一因だったのかも知れない。

一方で、風力利権を巡るタフな交渉を通じてエネルギー業界に多くの知己がいる片岡が応募検討を表明する裏に、経産省と電力会社の影がちらつくとみる関係者もいる。北海道新聞が片岡の応募検討を報じた8月13日、経産相の梶山弘志は「寿都町以外にも複数の自治体から問い合わせを受けている」とあえて他の候補の存在を言明している。

電力関係者の間では、核のゴミの最終処分場の有力候補地として別の東北地方の自治体の名前がかねてから本命として挙がっている。最初に本命候補が手を挙げて、是非を巡って大論争となれば、進むものも進まなくなってしまう。別の「噛ませ犬」が先鋒として反対派やマスコミを引きつけておけば、2番手以降の負担は格段に小さくなる。

「国策への協力」を強く打ち出すことで、もらうべきモノはしっかりもらう――。「セールスマン町長」のしたたかな計算が、長年の懸案を動かすきっかけとなるかも知れない。(敬称略)

   

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