夏休みMCフォレストスクール車いすラグビーに挑戦

来年の金メダルを目指す「車いすラグビー」の選手が講師になって、小学生がガツンと響く車いすタックルを初体験。

2019年10月号 INFORMATION

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試合の前に4選手とパスの練習

来年にかけ、日本でスポーツの世界的な大会が相次いで開催されるのを目前に控え、関心が高まっているスポーツの一つに、車いすラグビーがある。両手両足に障がいがある人を対象にした、車いすによる国際的なスポーツで、日本代表は国際大会でも銅メダルに輝いた強豪だ。その車いすラグビーの、小学生のための体験教室が、この夏、東京・丸の内で開かれた。

毎年、三菱商事のCSRステーション「MCフォレスト」で夏休みの時期に開催される「MCフォレストスクール」。小学生を対象に三菱商事が主催する同スクールは、今年も8月上旬~中旬にかけ、昆虫やサンゴについて学んだり、クラシック音楽を体験するなど、六つの教室を開講。多くの子どもたちが集まった。

4人の代表メンバーと試合体験

右から池崎大輔選手、島川慎一選手、羽賀理之選手、今井友明選手

8月13日に開かれたのが、「スポーツのちから 車いすラグビーを体験!」と題した教室だ。午前、午後と2回の教室には、それぞれ男女合わせて午前14名、午後15名の小学生たちが参加した。講師を務めたのは、車いすラグビー日本代表の池崎大輔、今井友明、島川慎一、羽賀理之の各選手。いずれも、銅メダルを獲得したときのメンバーである。

興味津々の子どもたちに、まずは選手が自己紹介。「TOKYO SUNSというチームに所属しています。持ち点3.0です」(池崎)「僕の点数は1.0です。今日は皆さんと一緒に楽しみたいと思っています」(今井)――。選手が口にした持ち点とは、障がいの度合いを示し、一番軽い人で3.5、重い人で0.5。パラスポーツは一人一人障がいの度合いが違うので、同じ四肢の障がいでも軽い人、重い人さまざま。1チーム4人の合計点は8点以内と決められている。

車いすラグビーに使用するボールと、この日子どもたちが使った競技用車いす

使う車いすは2種類。前にバンパーが飛び出している守備型のディフェンスタイプと、攻撃型のオフェンスタイプだ。

「僕は手の障がいが重いので、スピードが他の選手に比べ遅くなってしまうけれど、車いすのバンパーで相手チームの速い選手を止めることができる」(今井)

車いすラグビーは、障がいの重さが異なるチーム4人が、車いすの違いを生かしながら力を合わせて闘うチームスポーツなのだ。使用するボールは、楕円形でなくバレーボールをもとに開発した専用球。すべりにくく、障がいのある選手たちが扱いやすいように考えられたボールである。ラグビーだから、当然タックルもある。

基本的なルールについて聞いた後、子どもたちは選手とともに外に作られたミニコートへ移動。順番で実際に試合を体験した。

車いすに乗り、まずは選手たちとパスの練習からスタート。車いすを操作しながら、しっかり相手にパスやキャッチを繰り返す。みんな食い入るように真剣な表情だ。

それから黄色と緑のゼッケンに分かれ、選手を交えて試合に移行。ボールを持って自分のチームのトライラインを通過すれば1点獲得だ。トライラインに近づく相手チームを止めるため、車いすごとタックルし、そのたびに大きな金属音がガツン、ガツンと響く。車いす同士ぶつかるこのタックルは、競技の醍醐味だろう。最初は衝撃や音に驚くが、子どもたちはすぐに慣れ、果敢にタックル。味方にパスを回し、立て続けにトライする激しい場面の連続になった。ゲームオーバーの直前まで「ナイストライ!」「ナイスプレイ!」の声が飛び交い、車いすがぶつかり合う。競技の激しさ、体当たりの面白さが、見ている側にも伝わってきた。

「みんな飲み込みが早い」(池崎)「短い時間だったけど、ディフェンスもしっかりやれていた」(島川)と、講師の選手たちも嬉しそうだ。

ぶつかる楽しさが伝わった

最後にみんなで記念撮影

試合を終えた子どもたちは「タックルはすごく気持ちよかった」「ぶつかるのが楽しかった」と爽快な顔で話してくれた。これまでなじみのなかった競技の、経験したことのない迫力と面白さに、夢中になって楽しんだ様子。

試合の後、「なぜ車いすラグビーを始めたのか」という質問に、4選手が答えた。共通点はやはり「ぶつかる楽しさ」だった。

「事故で車いすになり、転ばないようにおとなしく慎ましやかに生きていかなければいけないんだと思ったが、車いすラグビーの試合を見て、いい意味で思いっきり無茶してもいいんだなと思えた」(羽賀)

10月16~20日には、東京体育館で強豪8カ国が出場する「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」が開かれる。講師を務めた4選手はそろってこの大会に参加することが決まっており、「しっかり結果を出したい」(池崎)「勝てるチームになれば」(島川)と抱負も語った。

「競技を知ってもらうことで輪が広がる」――選手たちはそんな思いで体験教室に取り組んできた。車いすラグビーの面白さが多くの人に伝わり、声援が増えることで、きっと金メダルを目指す日本代表の大きな力となるだろう。=敬称略

(取材・構成/編集委員 上野真理子)

   

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