「どうぶつ愛護議連」の仮面の下

愛護団体の願いに耳を傾けず、ペット業界と獣医師会の利権には目ざとい自民党族議員。

2018年8月号 LIFE

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どうぶつ愛護議員連盟の幹事長を務める山際大志郎衆院議員(右)と三原じゅん子参院議員(三原氏のブログより)

「モリカケ」問題に揺れた通常国会は7月22日まで会期延長され、働き方改革関連法案など与野党対決型のいくつかの法案が与党の強行採決で成立した。その陰で、与野党が概ね合意しているのに提出すらできなかった法案がある。見直し時期を迎えている動物愛護管理法(以下、動物愛護法)の改正案である。

法改正の最大の争点を簡単に説明しよう。犬猫の繁殖業者(ブリーダー)に対し、生後8週間(56日)に満たない幼い個体の販売や販売目的の引き渡し・展示を規制(「8週齢規制」と呼ぶ)するよう動物愛護団体などが求めており、自民党の大勢は理解を示すが、ペット業界とつながる一部の族議員が抵抗している──という構図だ。

山際、三原の背後に菅?

動物愛護法は議員立法で制定、改正が行われてきた。2012年の前回改正では、施行(13年9月)後5年をめどに見直しを検討すると附則で定められた。8週齢規制は6年前も法制化が望まれながら、強硬な反発に遭い事実上見送られている。

議員立法の法案は、内閣提出法案の審議を妨げないよう、与野党であらかじめ議論をまとめておくのが慣例。今回の改正に当たっては、超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」(会長・尾辻秀久元厚生労働相=自民党)で改正項目を議論してきた。

なぜ8週齢規制が必要なのか。親元から引き離した犬猫の赤ちゃんが問題行動を起こすリスクや罹病率・死亡率は、8週齢を下回ると高くなることが海外では科学的に証明されている。実際、米国や英国、ドイツ、フランスなどは8週齢未満の犬猫の販売を原則禁じている。

だが、日本のペット業界は「海外のデータは成長の遅い大型犬のもの」「早く人間の手許に置いた方が問題行動を防げる」などと反論。外見が愛らしい幼犬・幼猫の方が消費者に好まれ(それが衝動買いを誘発し安易な飼育放棄にもつながっている)、また飼育期間が短い方が流通・販売コストを抑えられるため、規制強化されては「商売上がったり」というわけだ。

実は現行法でも、本則には8週齢規制が明記されている。だが、附則で施行後3年間は「45日」、4年目以降は「49日(7週齢)」に読み替えるとされ、本則の実施には法改正が必要な建て付けなのだ。経過措置ですらない、完全な骨抜きである。

もう一つ愛護団体が重視しているのが、横行する「すし詰め飼育」への数値規制。今年3月にも、福井県の繁殖業者が、大量の犬猫を過密飼育していたとして動物愛護法違反で刑事告発されたが、数値基準がないことがネックとなり不起訴処分に終わった。こちらの法改正にもペット業界は消極的だ。

ペットフード協会の17年の推計では、国内の犬猫の飼育頭数は1844万頭で、15歳未満の子どもの数(今年4月現在1553万人)を超える。関連市場は今や1.5兆円規模。政界への影響力を増した業界の利害を代弁するのが、自民党の「どうぶつ愛護議員連盟」である。

鴨下一郎議連会長(元環境相)の下、幹事長の任にあるのが山際大志郎衆院議員。獣医師資格を持ち、ペット小売大手「コジマ」(東京都江東区)から政治献金を受ける。同社の会長は、業界団体「全国ペット協会(ZPK)」の会長でもある。事務局長は三原じゅん子参院議員。神奈川県選出の山際、三原両氏の背後には、横浜市を地盤とする菅義偉官房長官の影もちらつく。菅氏の市議時代からの支援者とされるペットショップ経営者がZPK元会長で、強硬な8週齢規制反対派だからだ。

この面々がご執心なのが、犬猫の個体識別のためのマイクロチップ装着義務化。山本幸三前地方創生担当相を中心に、これを柱とした改正法案の骨子を既にまとめている。確かに現行法の附則が求める検討項目の一つで、迷子の犬猫をなくして殺処分を減らせるとの主張に理がないわけではないが、生体に異物を埋め込み負担を与えるマイナス面もある。犬に関しては、狂犬病予防法の登録制度に屋上屋を架すとの指摘もあり、それほど優先順位が高いテーマなのか首をひねらざるを得ない。

「加計学園対策」との声も

5月30日、三原氏が仮面の下の素顔を覗かせた。元自民党衆院議員で料理研究家の藤野真紀子氏が代表を務める愛護団体が、8週齢規制の実現を申し入れたところ、「議論のテーブルにも上がっていない」と言ってのけたのだ。過密飼育への数値規制についても「データを知らない」と突き放した。

マイクロチップ装着には数千円の施術費用がかかる。つまり、獣医師会にとっては利権に他ならない。「加計学園の獣医学部新設で獣医師が増えるのを見越した対策」(超党派議連関係者)と見る向きもある。

三原氏の事務所に8週齢規制への賛否を尋ねると「今後議論を進めていくので、現時点での回答は差し控える」との返信があった。山本氏は「三原事務局長が回答した通り」。山際氏からは期限までに回答がなかった。

所管官庁の環境省も族議員らの肩を持つ。超党派議連が会合に担当者を呼び、8週齢で線引きする合理性を示すデータをいくら示しても、複雑な統計処理を駆使して「7週齢と有意な差はない」と反論する悪あがきを繰り返している。

超党派議連には女優の杉本彩氏もアドバイザーとして参加する。公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」理事長の顔も持ち、愛護運動の広告塔として活躍する人物だが、議連の中では奇妙な噂がくすぶる。自民党が来年の参院選に擁立すべく取り込みを図っているというのだ。

野党議員が訝る。「最近の杉本さんは8週齢規制ではなく、業界の利害と関係ない動物虐待の厳罰化ばかり言っている。獣医師の仕事を増やす項目にも熱心で、自民党の顔色を窺っているようだ。神奈川選挙区か、業界代表として全国比例での出馬を目指しているのでは」

現状では、自民党が8週齢規制を盛り込んだ法案で党内をまとめるのは困難。党議拘束を外すという手法も考えられるが、議員立法では1997年の臓器移植法案(共産党以外の全政党が賛否を各議員に委ねた)など特殊な先例しかなく、現実的ではない。超党派議連の自民党ベテラン議員は「秋の臨時国会どころか、来年の通常国会まで持ち越しかもしれない」と長期戦を視野に入れる。だが、時間をかけたところで業界や族議員を説き伏せられる保証はない。愛護団体関係者は「このままでは『ペット業界・獣医師会愛護法』になってしまう」と懸念する。

   

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