東 志保 Lily MedTech 代表取締役CEO

マンモの痛み消す「うつ伏せ」診断

2018年8月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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東  志保 氏

東 志保 氏(あずま しほ)

Lily MedTech 代表取締役CEO

1982年生まれ、35歳。06年電気通信大を卒業し日立製作所に入社。退社後、米アリゾナ州立大で航空宇宙工学修士課程修了。日本に戻り国内2社に勤務の後、16年5月にLily MedTechを設立。

――乳がんの革新的な診断装置を開発中です。

東 高校生の時、母親をがんで亡くしました。悪性の脳腫瘍で見つかった時に「もって1年半でしょう」と言われました。本人も家族も頑張りましたがちょうど1年半後に亡くなりました。この経験でその時は医療の分野に飛び込む気になれなかったのですが、家族としてなぜ早期に発見できなかったのかと後悔していました。十何年か経ち、医療用超音波を研究している夫が、乳がんの診断装置マンモグラフィーの課題解決の動きが世界中で起きている、自分が研究しているリング型超音波振動子は課題解決のポテンシャルを持っていると私に話しました。今ある機器に課題があって、それを解決する手段が私たちにあって、そして私自身にそれをやる理由があるのだからやるしかない、と考え起業しました。

――新装置の優れた点は。

東 うつ伏せになって乳房をベッドの真ん中の穴にある体温ぐらいのお湯につけると、穴の外周のリング状の超音波装置が上下に動き撮像します。胸が少し温かいかなという状態でじっとしているだけで済みます。マンモグラフィーやハンドヘルドエコーと違い機器を乳房に押しつけません。前開きの服でうつ伏せで撮るので、乳房は誰の目にも触れません。

――痛くも恥ずかしくもない機器の登場で34%しかない乳がん検診受診率は上がりそうです。

東 臨床研究の患者さんから「マンモのあの痛みは一体何だったのか」との声をいただいています。ただ、アンケートによると、検診に行かない一番の理由は「忙しいから」です。「恥ずかしくて痛いからどうしようかな、いろいろやることあるしな」で忙しいが選ばれているなら解決できますが、本当に忙しいが理由なら検診率はどこまで上がるかわかりません。それでも、乳がんは早期発見ができないと死に至る病です。未受診者を減らし、検診率を上げるムーブメントを作りたいと思います。

――社長業、大変では。

東 何にもないところから始める時はパッションがないといけません。まずは夫と一緒にプロの経営者を探しましたが、その人は「週5日のうち3日はこれに賭けましょう」と言うのです。「これではうまくいかない」とプロジェクトメンバーで話し合った結果、一番やる気がある私が社長になることになりました。設立当初は資金がギリギリでしたが政府機関から補助金をいただき、臨床試験でがんを捉えることができました。さらにデータがたまり、ベーシックな実力を証明することができ、資金調達は次のシリーズAに進んでいます。3年後にはこの装置を世の中に送り出したいです。

(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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