ふくしま逢瀬ワイナリー 実りの秋の「ワイナリーフェス」

果樹農業の6次産業化をめざし、郡山市初のワイナリーが誕生して2年。地元のワインが楽しめるイベントに、多くの愛好者が訪れた。

2017年12月号 INFORMATION

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ワイナリーのロゼとブドウのカクテル

福島県郡山駅から猪苗代湖方面に向かい県道沿いに走ると、やがて周囲は美しい里山の風景に変わる。2年前の秋、その里山に最新鋭の設備を備えたワイン醸造所が誕生した。米どころ郡山市に初めてできた、「ふくしま逢瀬ワイナリー」だ。一度に4万リットルものワインが製造可能なタンクを擁する1400㎡の本格的な施設で、ブドウのワインやリンゴのシードルを造れるほか、ブランデーやリキュールの製造用にドイツ製の蒸留器も備える。

逢瀬ワイナリーは、地元の果樹農業の6次産業化を支援する「ふくしまワイナリープロジェクト」の一環で三菱商事復興支援財団が設立。連携協定を結ぶ郡山市は、ワイン用ブドウを栽培する地元農家を公募し、プロジェクトを進めている。現在、10軒の農家がブドウ栽培に取り組み、昨年には施設内にワインショップもオープンした。

そんなワイナリーで、この秋、初めてのワイナリーフェスが開かれた。

隣接のブドウ畑も見学

アウトドアバルで温かい食事も

ワイナリー内のショップにはワインのほかにも福島産の商品が置かれている

施設内ショップに並ぶワイナリーのお酒。左からロゼ、シードルの大小ボトル、ピーチのリキュール、梨のリキュール

逢瀬ワイナリーの全景

ブドウ畑を案内する佐々木宏さん

「ふくしまワイナリーフェス」は同じ福島県内の二本松、いわきのワイナリーも参加し、地元の原料を使ったワインをPRしようと企画された催し。テントを張ったアウトドアバルでは、協力農家の手作りのけんちん汁やパスタなど、地元の食材を使った料理も提供され、ワインと共に楽しめる内容だ。

開催日の10月29日、ワイナリー周辺は鮮やかな黄色や赤の紅葉で彩られ、生憎の雨にもかかわらず、多くのワイン好きが来場。温かい料理に舌鼓を打った。

「他のイベントで逢瀬ワイナリーのシードルを試飲し、とても美味しかったので来ました」という30代の男女3人によれば、「福島県人はお酒好きで、ワインもよく飲む。郡山市内にはワインバーが多い」のだそう。埼玉から来たという夫婦は「前に他の地域でブドウ狩りをした時に、ワイン造りに興味が湧いた」。訪れた目的はみな、やはり美味しいワインを購入して帰ること。そして施設の見学も楽しみだという。

確かに、ワイナリーの施設案内は、ワイン愛好者ならもっとも興味を惹かれるところ。醸造・栽培責任者の佐々木宏さんが率いる案内ツアーは、午前と午後の2回に分けて開かれ、それぞれ20人の定員いっぱいの希望者が集まった。

果実圧搾の機器や貯蔵タンクがある施設内部は普段は関係者以外立ち入り禁止。佐々木さんの説明に、参加者から「発酵期間は」「ロゼの場合は」と、次々に質問が飛ぶ。さらに、今回の見学コースにはブドウ畑も入っている。今年の春、隣接地にできた約15アールの実証圃場だ。「1年目の若木なので収穫は再来年から。落葉したら剪定し、新しい枝を伸ばしていきます」――。果樹の実物を眼前にしての解説に、見学者たちの期待も大いに高まったようだ。

この実証圃場は協力農家と勉強していくために郡山市が作り、ワイナリーに管理を委託している。約330本のブドウの木の品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ、そしてオーセロワの6種類。「個々の苗木の特性で、同じ品種でも伸びが違ってくる」と佐々木さん。今年は8月に雨が多く、天気が悪かったので、生育は少し遅れ気味。それでも並んだ若木たちは、紅葉を前に生き生きと葉を広げ、どんな実をつけどんなワインになるのか、これからの年月が楽しみになる佇まいだ。

来年には郡山産ワイン生産へ

ワイナリー内のショップで今販売しているお酒は、地元郡山などで獲れたリンゴのシードルと、桃、梨のリキュール、そして会津産のマスカット.べーリーAのロゼだ。もちろん醸造はすべて逢瀬ワイナリー。ロゼは甘すぎず、バランスのよいやさしい味わい。シードルは「他の産地と飲み比べても、やっぱり福島の味。飲みやすく、これがおいしいなと思う」と郡山市園芸畜産振興課の箭内勝則課長補佐。郡山産の幸水と豊水が原料という珍しい和梨のリキュールは、ロックで味わうのがお勧めだそうだ。

2年前に植えた郡山市の協力農家のワイン用ブドウは、早ければ来年に本格的な収穫期を迎える見込み。順調なら2019年には郡山産ワインが生まれるのだ。これまでワイナリーで勉強会やセミナーを重ね、農家の結束は強まってきた。周囲の期待も大きい。協力農家の一員、橋本農園の橋本寿一さんは「いつから飲めるのか、早く出してくれ、と郡山市民がうちに催促の電話を寄越すんだ」と破顔する。生食用のブドウ作りを長年経験してきただけに、「雨が多い日本では、病気をいかに防ぐかがブドウ作りの大きな課題。そこをきちっと防げばいいものはできますよ」との言葉も伊達ではない。一方で、後に続く農家のためにも失敗できないと、責任感もにじませる。

来年には橋本農園育ちのメルローも、ワイナリーで発酵の時を過ごすことになるだろう。折しも評価が高まっている国産ワイン。地元の未来を切り拓く郡山発ワインの夢が、一歩ずつ現実に近づいている。

(取材・構成/編集委員 上野真理子)

   

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