「オレは極なんだ!」枝野新党決断の真相

枝野は強気をくじき、弱気を助ける侠客になり切ろうとしている。 僕ら労働系には久しぶりの追い風だ」(立憲民主党関係者)

2017年11月号 POLITICS

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立憲民主党の予想獲得議席は45――。12日付の日経新聞朝刊1面に載った衆院選序盤情勢調査の結果は衝撃的だった。「枝野は博打に勝ったな」。無所属で立候補した民進党出身のあるベテランはつぶやいた。

「今、構成員は私1人です。どなたであれ排除することなく共に闘いたい」。2日夕、民進党代表代行だった枝野幸男(53)はホテルニューオータニの宴会場でたった1人、立憲民主党の結党会見に臨んでいた。民進党として公認候補を出さず、小池百合子東京都知事(65)率いる「希望の党」へ合流するという前原誠司代表(55)の衝撃の提案が了承されたのがその4日前。ところが蓋を開けてみれば、官公労系など党内左派は小池の「排除の論理」による「選別」の憂き目に遭った。

合流が絶望的になった左派が「リベラルの受け皿を」と白羽の矢を立てたのが枝野だ。9月の党代表選で枝野を担いだ旧社会党系グループ「サンクチュアリ」や、民進党最大の支持団体「連合」の中でも自治労・日教組といった旧総評の産別関係者らが新党結成を枝野に迫った。

一方、小池の「排除」に遭いながらも無所属での出馬を決めた安住淳元代表代行(55)ら党重鎮は「枝野新党」の報道が流れると枝野に電話をかけ、思い留まるよう必死で説得した。「今ここで小池を敵に回すことはない。『左』のイメージからも戻れなくなりますよ」。枝野は旧民主党時代に「改憲私案」を発表するなど決して「左派」ではない。「官房長官までやったのに泡沫政党の代表なんかさせたくなかった」(ベテラン前衆院議員)。実は枝野自身も、結党会見の前日夜まで「新党か、無所属か」悩んでいた。

新党を選ぶ決め手になったのは、枝野の選挙区事情だ。抜群の知名度を持ちながらも地元の埼玉5区では自民党の牧原秀樹(46)に肉薄され、枝野の選挙基盤は実は決して盤石ではない。

無所属で出馬すれば希望の党は対抗馬を立てないが、「住み分け」には「小池と手を組んだ」というイメージが付いて回る。一方、新党を立ち上げれば小池は刺客を送り込んでくるものの、共産党の協力は得られる。いずれの選択でも連合はついてきてくれるだろう。どちらが自分の選挙に有利に働くだろうか――。毎回名前が挙がりながらも立候補に至らず「ここで出ないともう政治家として持たない」と出馬を決めた代表選を振り返った。「今、自分は『極』になったんだ」。最後は自らを奮い立たせ、新党結成を決めた。

たった1人で立ち上げた立憲民主党だが、首都圏を中心に安倍政権に反発する層の支持を集め、各社の情勢調査では野党第2党に躍り出る勢いだ。「枝野は強きをくじき、弱きを助ける俠客になり切ろうとしている。僕ら労組系には久しぶりの追い風だ」(同党関係者)。枝野にとっても「左旋回」と引き換えに初めて親分の座を射止めた。

一方の前原。リベラル勢力が小池に次々と排除された結果を記者団に問われると「全て想定の範囲内だ」と言い放った。「いくらなんでも言ってはいけない一言だった」(元民進党の希望の党前議員)と早くも衆院選後の再々編が囁かれている。初当選から24年間歩みを共にし、ついに袂を分かった2人。どちらに軍配が上がるかは22日の審判を待つのみだ。(敬称略)

   

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