編集後記「某月風紋」

2016年6月号 連載
by 宮

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「なぜ、ホンネを語らない」と噛みつく更田豊志委員長代理

歯切れが悪い東電の廣瀬直己社長

「海上放出」が持論の田中俊一委員長(撮影/本誌 宮嶋巌)

原子力規制委の更田(ふけた)委員長代理が、東電の廣瀬社長に猛然と噛み付いた。「東電は、規制当局にホンネを言わない。タンクの増設スペースがないのに、トリチウム水を溜め続けると言い張っている」「廣瀬社長は慮(おもんぱか)ることが第一と言うが、諸々(もろもろ)慮ってホンネを隠し、前に出ようとしないのは如何なものか」と。

4月19日、内閣府の作業部会が、約1千基のタンクに保管された、除去困難な放射性物質トリチウムを含む水(約80万t)の処分法を打ち出した。「地層中への注入」「水蒸気として大気放出」など五つの方策について詳細な評価を行い、海水で薄めて海に放出するのが最もコストが安く、処分期間も短いと結論付けた。米スリーマイル島原発事故で発生した約9千tのトリチウム水は、10年をかけて蒸発させたが、桁違いの約80万t(小学校の25mプール約2300杯分)を地層に埋めたり、蒸発させるのは、「およそ現実的ではない」(更田氏)。作業部会が示した「海洋放出シナリオ」は、トリチウム水を告示濃度まで海水で薄めて1日400t放出し、終了まで約7年かかる。

1年間に放出するトリチウムは約100兆Bqという天文学的数字だが、実は驚くに値しない。というのは、07年度に六ケ所再処理工場が放出したトリチウム水は1300兆Bq、13年度の仏ラ・アーグ再処理工場のそれは1桁上の1京3千兆Bqにのぼり、いずれも国際的な規制値をクリアしている。海洋放出の安全技術は確立しており、陸上に溜め込むほうが、よほどリスクが高い。過度の風評被害の克服が焦点となる。規制委の田中委員長は「廣瀬さんの歯切れの悪さは、船頭が多すぎて困っているから。しかし、もはや限界だろう。東電が勇気と誠意を持って地元を説得しない限り、汚染水対策の破綻は目に見えている」。いつになったら、東電はホンネを語り出すのか。(宮)

   

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