ゆずと共演『またあえる日まで』 復興支援音楽祭「歌の絆プロジェクト」

東日本大震災の被災3県の中高生84名がゆずと共演。歌の力で被災地に希望の灯を点した感動ライブ。

2014年5月号 INFORMATION
取材・構成/編集部 上野真理子

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ゆずと生徒たちの大合唱が会場を盛り上げた

東日本大震災からまる3年が経とうとする3月2日。まだ雪のちらつく仙台の町に、10代の瑞々しい歌声が響いた。

「またねと手を振るけど明日も会えるのかな 遠ざかる君の笑顔今でも忘れない」「きっとまた会おう あの町で会おう 僕らの約束は消えはしない」

歌ったのは福島県の南相馬市立小高(おだか)中学校、県立浪江高校、県立相馬農業高校飯舘校の合唱部の生徒、計33名。曲は小高中学校の卒業生たちが作詞し、先生が曲をつけた『群青』。震災と原発事故で離ればなれになった生徒たちの思いが託された歌詞。透明なハーモニーにのせた一語一語がまっすぐに聴く人の胸に飛び込んできた。

この日、仙台サンプラザホール(仙台市宮城野区)で開かれた「復興支援音楽祭 歌の絆プロジェクト」の第一曲目だった。耳を傾ける聴衆に、歌声が一気に染み通っていく。子どもからお年寄りまで、幅広い年齢層の客席には、涙を浮かべている人もいた。その場の誰もが「歌の力」を実感した瞬間だった。

♬ 被災校の生徒がステージに

音楽祭は三菱商事と朝日新聞社が、歌を通して被災地の人々に大きな希望を持ってほしい、と東日本大震災の復興支援の一環として企画したもの。被災地域の学校関係者を中心に約2千名の招待客が来場。会場の誘導などで三菱商事グループから73名のボランティアがサポートして開催された。

冒頭で挨拶した鍋島英幸実行委員長

「歌には大きな力があります。つらいとき、くじけそうになったとき、歌はみんなを癒してくれ、元気づけてくれる。人生の一番近い友が歌ではないか」

プロジェクトの実行委員長である三菱商事の鍋島英幸副社長が冒頭の挨拶で語った言葉は、音楽祭が始まると、そのまま聴く人の実感に変わっていった。

音楽祭の幕開けは、被災3県の合唱団がそれぞれ1曲ずつを披露。参加した中高生は3県で計84名。みなこの日に向けて練習を重ねてきた。中には、被災でバラバラになり、再びつどった生徒たちもいた。

最初に紹介した福島県に続き宮城県の仙台市立八軒中学校の合唱部30名が『あすという日が』、岩手県からは県立高田高校、大船渡高校、釜石高校の合唱部計21名が『願い~震災を乗り越えて』を歌った。いずれも復興支援のシンボル曲といえる楽曲だ。岩手の高田高校は校舎が被災してまだ仮校舎。宮城の八軒中学校は仮設住宅を訪問して歌を披露してきたという。「君はひとりぼっちじゃない」(『願い』)、「あすという日がある限り幸せを信じて」(『あすという日が』)との歌詞は聴く側への言葉であると同時に、歌う生徒たち自身にもひしひしと響く言葉だったはずだ。

3県の中高生が披露した3曲の後、がらりと舞台の様子が変わった。新たにステージに上がったのは、アーティストのゆず。北川悠仁と岩沢厚治の二人がギターを手に登場し、大ヒット曲『栄光の架橋』を奏で始めると、一気に会場がヒートアップした。

ゆずが出演することになったのは、東日本大震災後、被災地で支援活動を続けてきた実績からだという。本番前には生徒たちに「一緒に頑張りましょう」と声をかけていた彼らは、もともとストリートライブ出身。客席を楽しませる絶妙の運びは貫禄さえ漂う。ドラマ『ごちそうさん』の主題歌だった『雨のち晴レルヤ』など計5曲を演奏、間のトークでも客席を盛り上げた。

そんなステージの途中で、北川は客席にこう語りかけた。

「震災があり、自分たちに何ができるのかすごく迷いました。しかし、歌を歌う人間には歌しかないという思いで何度も歌を届けに来させてもらっています」「来るたびに結局、勇気づけられているのは自分たちなのではと思う。そして東北のみなさんに感謝の気持ちでいっぱいになる」

♬ 客席も加わり大合唱

音楽祭のしめくくり2曲は84名の中高生とゆずの共演となった。震災直後に作られ、震災の年の東北ツアーで披露されたというゆずの『友 ~旅立ちの時~』。合唱コンクールの課題曲に使いたいと話があり、みんなに歌ってもらえるようにと新たにアレンジを加えたという。合唱団のハミングとピアノの前奏で始まったミディアムテンポの情感あふれるメロディ。ゆずの歌声に生徒たちのやわらかな和声が重なった。最後の曲『またあえる日まで』では、手拍子に合わせ、舞台の合唱団だけでなく客席も加わった大合唱となった。

会場を出ると、熱気冷めやらぬ顔でいっぱい。中学生の男の子たちに感想を聞くと、「音楽で会場がひとつになったのがすごかったですね」「心から感動した」と口々にはずんだ声が返ってきた。

復興支援音楽祭には「音楽の力で子どもたちの未来への希望を育てよう」という願いが込められている。この日若い世代が感じた希望が大きく育った時こそ、被災地の本当の復興が見えてくるに違いない。(敬称略)

   

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