「ニコニコ動画」が自民党寄りなのはなぜか。副総理の御曹司が経営参加していたから。
2013年8月号 POLITICS
エクストーンのウェブサイトと麻生将豊氏(飯塚青年会議所機関誌より)
参院選の公示を控えた6月28日、ネット動画サイト「ニコニコ動画」で行われたネット党首討論の会場で、自民党ネットメディア局長・平井卓也衆議院議員が「ネット工作」をしていたと報じられた。「東京新聞」によると、自分のスマートフォンから、福島瑞穂・社民党党首が発言した際に「黙れ、ばばあ」などと書き込んだというのだ。
「ニコニコ動画」は、視聴者が書き込んだメッセージがリアルタイムに画面上に表示されるので、罵詈雑言で画面を埋め尽くせば「ステルスマーケティング」のような操作ができる。平井氏は自民党公認のネットボランティア組織「自民党ネットサポーターズクラブ」(J–NSC)の代表も務める、いわば「ネット部隊」の長。普通なら「大炎上」しそうなものだが、なぜか、そのような動きはない。
「他党の議員が同じことをやったら間違いなく火だるまだが、ニコ動は安倍首相が『私のホームグラウンド』と呼ぶほど自民党支持層が多い」(ウェブニュース編集者)
それを象徴する出来事が6月19日にあった。民主党の細野豪志幹事長が「ニコニコ生放送」に出演し、視聴者に民主vs自民のどちらを支持するか聞いたところ、民主4.5%vs自民73.9%という圧倒的な投票結果が出たのである。「ニコ動」には、なぜ、これほど自民支持層が多いのか。
「J–NSC会員の多くが国会中継や自民の集会を録画した映像をアップするなど、サービスを利用していることもあるが、ニコ動はもともと『麻生ファン』が多い」(J–NSC会員)
麻生太郎副総理が「ニコ動」に「麻生自民党チャンネル」を開設したのは総理就任直後の2008年10月20日。「ゴルゴ13」などの漫画好きというキャラが「アキバ系」からバカ受け、わずか半日で10万回近く視聴されるなど反響は大きかった。麻生氏はその後も積極的な情報発信を続け、ネット人気を不動のものにした。
つまり、今日のネット空間における自民人気は、麻生副総理が早くから「ニコ動」をフル活用してきた功績が大きいわけだが、「副総理のネット好きはご子息の影響」(自民党若手議員)との見方がもっぱらだ。というのも、「ニコニコ動画」の成り立ちから、麻生氏の長男である将豊(まさひろ)氏(28)が深く関わっているからだ。
「将豊さんは知る人ぞ知るネットビジネスのエリート。SFC(慶應義塾大学藤沢キャンパス)の仲間たちと、05年3月に『有限会社シーリンク』というネットベンチャーを創業し、ニワンゴ開発プロジェクトに参加しました」(ネット企業社長)
「ニワンゴ」は「ドワンゴ」(東証一部上場)の子会社で、「2ちゃんねる」管理人として知られる西村ひろゆき氏を取締役に迎え、西村の「に」を社名に冠し、05年11月に設立された。同社は「ニコニコ動画」の運営などを行っており、その立ち上げに将豊氏が関わっていたというのだ。さらに興味深いのは、これと並行して、麻生グループの中核をなす「株式会社麻生」の代表取締役を務める麻生巌氏(39、麻生副総理の甥)が、05年12月に「ドワンゴ」取締役に就任していることだ。
折しもこの当時、海外におけるネット選挙が注目され、自民党も「ネット選挙解禁」を打ち出していた。慶大経済学部を卒業後、英ケンブリッジに留学し、「選挙制度」に関する論文を書いたという巌氏が、ネット企業「ドワンゴ」のポテンシャルに惹かれたのは当然としても、誰が、その「橋渡し」をしたのか。気になるところだ。
巌氏本人がウェブのインタビューで答えるところによると、ある「飲み会」に参加した時、「マジック・ザ・ギャザリング」というカードゲームの話で盛り上がった。その中心にいたのが「ドワンゴ」会長で、現在スタジオジブリに籍を置く川上量生(のぶお)氏であり、そこから意気投合して経営に参画することになったという。ひょんなことから始まった関係のようだが、実は両者の「飲み会」をセットしたのは、他ならぬ従兄弟の将豊だと囁かれているのだ。
「麻生グループで飯塚病院などの医療ビジネスを手がける巌氏は、川上氏と全く接点がない。一方、将豊さんはニワンゴプロジェクトで、川上さんと親しくなっていましたから」(前出・ネット企業社長)
「有限会社シーリンク」は06年10月30日に「株式会社エクストーン」となり、将豊氏は取締役に就く。麻生副総理の資産公開によると、将豊氏は同社株式を9553株、母のちか子氏も5120株を保有している。「エクストーン」は20人ほどの規模ながら、そのアイディアと技術が高く評価され、大手クライアントから仕事を受注、「ドワンゴ」の通販サイトである「ニコニコ直販」「ニコニコ市場」などを手がけている。ちなみに同社の役員は「ニワンゴ」の役員を兼務し、先の川上氏も「エクストーン」の顧問である。
麻生副総理のネット人気の源泉である「ニコニコ動画」の礎を築いたのが、将豊氏の働きだとしたら、麻生氏は「たいへんな孝行息子」を持ったといえよう。いや、正確には「優秀な跡継ぎ」を得たと言うべきか。実は昨年、エクストーンのホームページから将豊氏の名が消えた。九州に帰還したからだ。
目下、将豊氏は麻生一族の地元である福岡県飯塚市で、「トヨタ自動車九州」に勤めている。昨年12月に発行された「社団法人飯塚青年会議所」の機関紙に登場した将豊氏は、「魅力・開発委員会」の委員長として、「まちの魅力を発信し、より多くの人がまちを訪れる事業をおこなう」と決意を述べている。「飯塚青年会議所は、国政に出る前の父親が籍を置いた拠点。ネットベンチャーを創業した実績を持つ将豊氏がいよいよ後継者として動き出した」(地元の新聞記者)
華麗なる血脈と莫大な資産、揺るぎない地盤を受け継ぎ、「ネット」という新兵器を自在に操る麻生氏の御曹司が、小泉進次郎氏のライバルとして、彗星のごとく登場しそうだ。