編集後記

2013年2月号 連載
by 宮

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1月4日早朝。「Jヴィレッジ」に設立された福島復興本社。整列する80人の職員を前に「明けまして……」の祝辞はない。鬼気迫る仕事始めを初めて見た。

日の丸と東電の社旗を背にした石崎芳行復興本社代表(59)が語りかける。「水力、火力、原子力……明治から百年に亘り、私どもは福島県に大変なご恩を頂いています。受けたご恩を常に忘れず、被災されている方々の苦しみを常に忘れず、東電魂を結集することにより、必ずご恩をお返しします」

石崎氏は東京生まれの東京育ちだが、母上は会津の出身。かの地には「ならぬことはならぬ」と、子どもをしつける「什(じゆう)の掟」(童子訓)というものがあり、「恩を仇で返してはならぬ」と言い聞かされて育ったという。「今年は巳(み)年。古来、巳(へび)は受けた恩を忘れないと例えられます。私自身も年男として、ご恩をしっかりとお返ししたい」とも言う。福島第2原発の所長を務めた石崎さんは浜通りに知り合いが多く、Jヴィレッジのある広野町へのご帰還が10%に満たないことが居たたまれないと漏らす。その石崎さんが先頭に立ち、損害賠償と除染など、山積する課題に取り組む。さらに、東電全社員(約3万8千人)が復興支援ボランティアとして福島に入り、年間延べ10万人が汗を流す計画だ。

石崎さんは広野火力の単身寮に住み、歩いて30分のJヴィレッジに通う。「なぜ、家族を連れて来ないのか」という意地悪な質問に「東京の自宅では女房が義母の介護をしています。いずれ、こちらで暮らせるようになると思っています。私たち夫婦は生涯、この浜通りで暮らすと、心に決めております」と答えた。「元旦に地域の皆様方と海から昇る初日の出を拝んで、新たな力を頂きました。全精力を挙げようと、心に誓いました」。人の上に立つ人は、かくありたいものである。

   

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