東北の地元企業を第一生命が応援
2013年1月号
INFORMATION
取材・構成/編集部 U
営業所も職員も被災した仙台総合支社が独自に企画。懸命に立ち上がる地元企業をビジネスチャンスで支援。
古内社長(右)と佐藤信也専務。背後は狐崎漁港と再建中の共同処理場
は歳暮用の商品。大ぶりで15個入り
人も企業も震災で深い痛手を負った東北で、地元企業を支援する民間の催しに注目が集まっている。2012年9月12日、ホテルメトロポリタン仙台で行われた「復興支援ビジネス商談会」。単なる名刺交換会ではなく、ホスト企業として大手21社がブースを設置、地元の中小企業と直接面談する形式で、468社が集まる大盛況となった。主催は生保大手の第一生命。11年9月にスタートし、この日が3回目だった。
商談会は第一生命の仙台総合支社が独自に企画した。震災時、所轄の宮城県内で2店舗を失い、100名超の営業職員が家を流され、亡くなった職員も。支社では売り上げのグラフを外し、地元密着を最優先に、県内22万件の保有契約の安否確認に回った。また全社を挙げて迅速な保険金の支払いに尽力、寄付やボランティア活動などで被災地を支援した。そうした中で、販路を断たれるなど環境が激変し苦しむ地元企業の現状を肌身で実感。同社の経営理念「お客さま第一主義」にもつながる商談会の企画が生まれた。「身近なお付き合いをしてきた営業職員たちがパンフレットを手渡し、参加をよびかけました」(佐藤公博支配人支社長)
ホスト企業は流通、建築、食品、電機など多彩な顔ぶれ。面談の合間には地元企業同士でも会話に花が咲き、新たな取引が生まれている。3回目からは東北全域に募集範囲を広げた。商談会に参加した地元企業を、現地に訪ねた。
石巻市街から車で1時間ほど、牡鹿半島西側中央にある小さな漁港。カキ養殖で知られる石巻市狐崎浜に、「宮城県狐崎水産六次化販売」がある。ものものしい社名だが、カキの生産者たち6人が集まり、12年7月に立ち上げたばかりの会社。海の男らしく日焼けしたメンバーの一番下は20代。働き盛りがそろう。
若い人も目立った当日の会場
地震直後に皆で沖に出した船は無事だったが、津波で共同処理場が被害を受け、カキや養殖道具はすべて流された。直後は「この先どうすっかしかみんな頭にねがった」(古内新一社長)。狐崎浜の18軒の生産者のうち5軒は廃業。6人で陸に残っていたロープやブイなどを出し合い、なんとか3カ月後に養殖を再開した。
しかし、共同処理場の再建に目処が立たなかった。殻剥きができず、出荷が危うい。仕事後に毎晩相談を重ね「やるなら販売まで」との思いで会社を作った。夏には銀行の融資を受け、自前のプレハブ処理場も建てた。だが6人は、自力での販路開拓という初めての難題に直面する。
そんなとき誘われたのが、ビジネス商談会。当日ジーンズで出かけた古内さんらは会場で大勢のスーツ姿にびっくり。4社と話ができ、日本物産に「お歳暮用の商品がまだ決まっていない」と聞いて「もしかするといける」との感触を得た。
商談はとんとん拍子に進み、歳暮用にネット販売。11月末時点で約300件の注文が入った。カキも大きく育ち、上々の出来。古内さんは「思った以上に注文がきた。これでカキ棚を増やしていける」と、晴れ晴れとした笑顔をみせた。
赤坂社長。手前のビンは開発中の新商品
プレハブの工場でも設備には気を配っている。従業員はいったん解雇せざるを得なかったが、再開後に再雇用した
沿岸から遠洋まで多くの漁船が集まる気仙沼市。「あかふさ食品」は魚を素材にした地元の食品加工会社で、業務用商品のほか、ほっけや鮭のほぐし身瓶詰めを一般向けに販売している。商談会は第一生命気仙沼営業所の職員の呼びかけで2回目から参加。ホスト企業の仙台三越から声がかかり、新しい商品の開発に取りかかっている。「最初の感触からよかった。イーブンな感じでお話しし、アドバイスもいただいた」と赤坂知政社長は語る。
海辺の川口町にあったあかふさ食品の工場は、大震災の日、津波に呑まれた。地震直後に赤坂さんの実父(当時社長)が「みんな合同庁舎に避難させろ」と指示。従業員20人は全員助かったが、工場に残った父は帰らぬ人となった。庁舎から、津波に流される町の中に父の姿を探し、火災が近づく恐怖を味わった。
親分肌で慕われた父を失い、工場も商品もない。それでも赤坂さんに気仙沼から離れる気持ちは「ゼロだった」。取引先の親身な支援を受けて操業を再開。現在、プレハブの工場で会社再興を期す。基盤を作り販路を広げ、沈下した土地のかさ上げが完了したら、工場を再建するのが当面の目標だ。
気仙沼で営業を再開した企業は、まだ以前の半分にも満たない。「川口町の工場は更地になった。さびしいからずーっと残してたけど、どっかで踏ん切りつけないと」と赤坂さん。春には結婚17年で初めての子どもが誕生する。
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懸命に立ち上がる地元企業にビジネスチャンスをもたらす商談会を、第一生命は13年も継続する予定。次回は4月11日、詳細は仙台総合支社(☎022-227- 2521)へ。