「玄品ふぐ」「鳩山」看板の転落劇

38歳救世主があえなく沈没。ヤマゲン証券オーナーなど「三点セット」が瓦解した。

2013年1月号 DEEP

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ふぐ料理の格安チェーン店「玄品ふぐ」が看板に使われた

地味な株式相場が続き、盛り上がる話題も乏しかった東京・兜町で、2012年に颯爽とデビューして注目を集めたのが、金融家のN氏だった。

「仕手御用達」と言われるヤマゲン証券のオーナーとなり、次に格安ふぐ料理店「玄品ふぐ」をチェーン展開する関門海(東証マザーズ上場)の“救世主”として名を売り、同時に「政治家のスポンサー」という噂も流れた。

事実、N氏の会社、GTRブリックグループホールディングス(以下、ブリック社)には、鳩山邦夫元総務相の公設秘書と邦夫氏の長男・太郎氏が、社外取締役に名を連ねていた。

ヤマゲン証券に、関門海に、鳩山家――。話題となるには十分だが、これまでN氏が“無名”だったのは、38歳という若さに加え、出身地の関西と海外を主な拠点にしていたためだ。

「Nって何者?」

そんな“確認作業”と同時並行の形で、N氏の転落も始まっていた。資金繰りの逼迫を伝えるのは、関門海が9月24日に出したIR(投資家向け広報)だった。

筆頭株主からの転落

そこでは、ブリック社とN氏が連帯して、4億1700万円の債務を㈱椿台に有し、その担保に関門海株を代物弁済予約で入れていたところ、期限までに弁済できなかったとして、ブリック社の持つ3万466株(議決権の32.73%)が、椿台に譲渡され、筆頭株主ではなくなったことが記されていた。

N氏がコンサルタント的に関門海に関わるようになったのは11年末からで、12年に入ってから本格的に関与、曲折の末、5月末が払込期日の5億円の第三者割当増資を全額、ブリック社で引き受けている。これを受けて『東洋経済四季報速報』は、「債務超過の解消にメド、13年3月期も黒字定着の公算」と好意的に報じた。

だが、実際に支援する資金力はN氏になかった。椿台は関門海創業者である故山口聖二氏の息子が大株主の会社。要は、創業家の資金を“寸借”しただけの増資引き受けだった。

この時点でN氏は「出直し」を決意している。鳩山太郎氏と邦夫代議士秘書の小澤洋介氏は、9月12日にブリック社を辞任し、N氏はヤマゲン証券取締役を9月25日に退任した。

かくて、上場企業大株主と証券オーナーと鳩山家という「三点セット」を一度に失った。

関門海は1980年の創業。山口聖二氏が、高級食材イメージのあるふぐを、産地直送で安く価格設定、最盛期には直営とフランチャイズを合わせて100店舗を超えた。

だが、05年、山口氏が44歳の若さで事故死。遺族が相続税を物納したために、上場企業では珍しく国(財務大臣)が筆頭株主となっていたが、創業者一族の管理会社がTOB(株式公開買い付け)で買い戻すなど経営は混乱した。

また、ふぐ以外に「玄品かに」「玄品カレー」などを多店舗展開。そうした積極経営が裏目に出て、11年第2四半期までには債務超過に陥り、早期に資金調達しなければ、上場を維持できない状況となった。そこに乗り込んだのがN氏だった。

一方、ヤマゲン証券は創業64年の老舗。だが実態は、故西田晴夫氏など名うての仕手筋が利用、証券取引等監視委員会に目をつけられたエイケイ証券が、09年6月に自主休業のうえで“衣替え”したもの。

具体的には、エイケイのオーナーがヤマゲンホールディングスを設立、その傘下に買収したヤマゲン証券とエイケイがぶら下がり、藤原和則社長などエイケイ証券の主要スタッフは、ヤマゲン証券に移った。

社名は変更しても「怪しい筋の株を扱う証券会社」という実態は変わらない。また証券監視委の取り締まり強化で、そうした“筋”が得意とする増資絡みのグレーゾーン調達が難しくなり、勢い、ヤマゲン証券の経営も厳しい。その窮地を救う投資家として登場、資金を投入して大株主となったのがN氏だった。

そうした原資をN氏は、達者な“弁”で集めたが、結局、オーナーからの借金で第三者割当増資を引き受けるという関門海でのテクニックが象徴するように、集めたカネを次に回し、借金の信用は、関門海とヤマゲン証券と鳩山家で得るという自転車操業。だから転落も早かったが、債権者はその“不実”をなじる。

「関門海やヤマゲン証券との関係はもちろん、これまでの経歴も金融マンとしての実績も、あまりにウソが多過ぎる。全てを失って、彼には十数億円の借金が残っていると思う。復活はもう不可能。返済は諦めて、捜査当局に刑事告訴しようと思っている」(債権者)

風雲児に信用を与えた「三点セット」は何というか。

「現在、当社とは関係のない方です」(関門海IR担当)

「ブリック社が大株主ということで、非常勤の取締役ではありましたが、今は関係ありません」(ヤマゲン証券取締役)

鳩山家に関しては、小澤秘書がこう答えた。

「1年ぐらい前、関西の方からの紹介で、私がN氏と知り合い、太郎さんともどもお世話になりましたが、ほんの短い期間で、今は退任しています」

では、N氏はどう答えるのか。兜町のオフィスで債権額も含め率直に語った。

背伸びで負債8億円余

「トレーディングやストラクチャーの技術には自信があったので、ヤマゲン証券でそれを試してみたかった。でも、できずにむしろ資金繰りを支援、いつの間にか大株主になった。関門海については、金融支援を頼まれたのがきっかけですが、ふぐという本業での企業再生をお手伝いしたかった。でも結果的に資金繰りで失敗。原因は、私の“背伸び”にあったと思っています。負債総額は8億2千万円。ブリックを維持しつつ、誠心誠意をもって返済していくつもりです。債権者の方や鳩山家の方にご迷惑をおかけしたことに対し、申し訳なく思っています」

このお粗末な結末もまた、証券界と政界が困窮していることの“証し”である。

   

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