「ドメイン寄生虫」やらせパブコメ

都合よく改竄し、利権を独占堅持。笑うべき改竄だが、総務省も手玉にとる。

2012年11月号 BUSINESS

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なんというお粗末なパブコメか。呆れてものが言えない。

パブコメ――パブリックコメントの略称で、正式には行政手続法39条に定められた「意見公募手続き」を指す。行政が政策や制度を決める際に複数の案を提示、一般の意見を公募して最終決定する仕組みのことだ。行政に限らず、公共性の高い事業でも、広く意見を聞いて透明性を確保するケースが増えた。

だが、インターネット上の住所とも言えるドメイン名の事業を独占する日本レジストリサービス(JPRS)を監督する社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が公表したパブコメは、あまりにこすっからい目くらましで涙が出てくる。

新しく制定された「・日本」(ドットニッポン)をJPRSが運用することについて、専門家や有識者を中心に3年間にわたって事業の公共性・透明性を議論し、その監督スキームや体制などに対する意見を公募した。応募した意見とともにこのほどJPNIC側の見解を公表したのだが、一言で言えば、中身は自分たちに都合のよい意見を抜粋し、それに回答した「お手盛りパブコメ」「やらせパブコメ」以外の何ものでもない。

都合の悪い意見はカット

本誌は8月号で、JPRSとJPNICが「ドメイン」ビジネスに巣食う寄生虫ではないかと指摘し、「.jp」ドメインの利権問題に絡んで事業を独占する「監督」とは名ばかりの利益誘導構造を暴いたが、それをみごとに裏付けてくれた。

パブコメ改竄の動かぬ証拠がある。ある関係者がこのパブコメに提出した意見を本誌は入手した。今回、JPNICがまとめたパブコメと突き合わせると、都合の悪い部分は完全に葬り去られていたのだ。

たとえば、利害当事者の影響を排除した第三者委員会による評価の必要性を指摘した部分や、JPNICが保有するJPRSの株式売却問題に関するくだりはバッサリ切り捨てられている。このような指摘が寄せられること自体「監督」が適切に行われていないことを示すことになるので、パブコメでも表には出したくなかったのだろう。

一方で、公表されているのは「基本的に賛成」「高く評価できる」「的確である」などと歯の浮くような意見が多く、JPNIC側も「案の内容にご賛同いただいたものと認識します」などと、お手盛り感に満ちすぎて気持ちが悪くなるほどだ。

そもそもこのパブコメ、募集時からすでにキナ臭かった。21件の意見が寄せられたそうだが、初めから「公表に際しては組織名や個人名は公開いたしません」としていた。パブコメは非開示要求がない限り、意見者の名称を公開するのが普通ではないか、という本誌の指摘に対し「今回のパブコメは率直な意見を寄せていただくために、組織名・個人名を非公開にさせていただきました」と回答した。恣意的抜粋を隠すためだろう。

そればかりか、公共性・透明性を議論する「日本インターネットドメイン名協議会」の中立的な正論派メンバーに知られないよう「こっそりやった」感じがありありと伝わる。パブコメに寄せられる「正論」は鬱陶(うっとう)しいし、協議会の決定を無視していることは自覚しているので、とにかく形だけ取り繕おうとしたのだろう。

協議会の理事や幹事といった中心メンバーにもJPNICからの知らせは一切なく、ある関係者は「締め切りの3日前に今は使われてないメーリングリストに流れてきた文章をたまたま開いて偶然知った」有り様。「慌てて意見を出すよう各方面に連絡したが、時間がなさすぎる」と悔しさをにじませる。

このメーリングリストに情報を流したのは総務省官僚だった。JPNICのやり方に疑問を抱き「おそらく気がついてないでしょうから」とそっと流したようだ。ただ、通信行政を司る総務省の役人がドメイン名事業の公共性・透明性をないがしろにする暴挙に対し、「そっと流す」弱気はどうしたことか。

居直りに屈する総務省

その背景は約20年前にさかのぼる。日本のインターネット黎明期に学術系と民間系の激しい主導権争いがあった。民間系は日本初の商用プロバイダーのIIJを中心とする一派。当時の郵政省は学術系の圧力に屈し、IIJの通信事業の認可を2年間先送りした。民間系を中心に設立されたJPNIC側は「いまだにそれを根に持ち、総務省に対し昔の話を持ち出してチクチクやる」(関係者)そうだ。

今の総務省の課長や課長補佐は「JPNICのやり方はおかしい」という共通認識こそ持っているが、そうした背景がわからないため反論もできず、途方に暮れてしまうらしい。

日本ドメイン名協議会の決議を引き継いだ「移管契約第13条検討委員会」の議事録を読んでも、JPNICの居直りに屈する総務省の様子が透けて見える。当初は、意見を言えるオブザーバーとして参加していたにもかかわらず、最後には傍聴者に成り下がり、発言権も奪われた格好。ほかにも、JPNICと総務省の間で協議して決めた事案をうやむやにされ、「総務省は完全になめられている」という。

社団法人法改正で、JPNICは13年までに一般社団法人か公益社団法人かを選択しなければならないが「一般社団法人をめざしている」(関係者)という。それはそうだろう。「公益」になったとたん、公益性を満たすかどうか、公共性や透明性のチェックが厳しくなる。

社団法人といっても、「一般」となると、設立許可を必要とした従来の社団法人とは異なり、一定の手続きと登記を実施すれば、監督官庁の許可を得る必要はなく誰でも設立できる。通常の株式会社と大差なく、課税対象となるものの、大手を振って利益を上げられる。ますますやりたい放題になるだろう。

ある「正論派」の関係者は、JPNICとJPRSのこの問題を広く知ってもらうために有志による研究会の立ち上げをもくろむ。予定メンバーには著名有識者の名が並んでいるが、はたして総務省も手玉に取るこの厄介な「寄生虫」を駆除できるだろうか。

   

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