編集者の声・某月風紋

2012年3月号 連載
by 宮

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某日、福島原発が立地する双葉町が、役場ごと避難した旧騎西(きさい)高校(埼玉・加須(かぞ)市)を訪ねる。最寄り駅からクルマで15分。冬枯れた田畑の向こうに5階建ての古びた校舎が姿を現す。旧校長室(現町長室)のある2階が役場となり、畳を敷いただけの教室で今も500人弱の町民が避難所生活を送っているとは想像もしなかった。朝昼晩に仕出し弁当を配るチャイムが鳴り、送迎付きスーパー銭湯も利用できる。駐輪場で洗濯物を干す人、中庭でタバコをふかす人、食堂で新聞を読む人、無料パソコンの前に座る人。どこか孤独で草臥(くたび)れて見えるのは、その多くが家財を失った無職のお年寄りだからだ。

1月30日、加須市で開催された国会事故調を傍聴する。参考人となった井戸川克隆双葉町長(65)は「(政府の原発事故関連会議の)議事録がないのは背信行為だ」と憤り、国の「中間貯蔵施設」建設要請についても「外部に飛び散った放射能は東電のものではないそうだ。持ち主のいないものを、誰が受け入れられますか」とかみついた。井戸川さんといえば「双葉郡民を日本国民と思っていますか」と、野田首相を問い詰めた気骨の人だ。東電については「賠償の態度からは謝罪の心が感じられない」とし、「なぜ、加害者の東電社員が自宅で暮らし、我々被害者が仮設や収容所のような場所で我慢しなければならないのか」と怒りをぶちまけた。

その3日後、国会事故調の黒川清委員長が牙を剥き、原子力規制庁の新設を盛り込んだ閣議決定の見直しを求める抗議文を総理と全閣僚、全国会議員に送りつけた。事故調設置法では、調査結果に基づき原子力行政組織のあり方の見直しを提言するのが役目だから、文句を言うのは当然だ。「我々の苦しみと無念さを晴らす、最大限の原因究明を!」という双葉町長の訴えが届いたようだ。

   

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