政府・東電が世を欺く「事故収束」宣言

1号機の炉心はもぬけの殻なのに「冷温停止」の開き直り。吉田所長は病気で隔離し、口裏合わせに専念か。

2012年1月号 LIFE
by C

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福島第一原発を訪れた細野原発事故担当相と吉田所長(11月12日)

Jiji Press

福島県や周辺地域の住民が東京電力福島第一原子力発電所による放射能汚染で苦しんでいるのをよそに、東電は責任逃れや言い逃れ、つじつま合わせにしか関心がないようだ。現状を隠しだてせずに明らかにしているように見せかけながら実態はつかみにくくするし、自らの立場が悪くなるような肝心な情報は伏せるか、気づかれないようにさりげなく出す。メディアも福島原発の情報を東電に頼るあまり、東電の狡賢い世論操作の術中にはまって舌鋒がなぜか鈍い。

東電は12月初め、原発事故調査の中間報告書を公表した。社内関係者らの調査をもとに福島原発の地震や津波への備えと地震直後の対応をまとめたという。表向きは事故の原因調査と再発防止策の取りまとめだが、子細に読むと中身は責任逃れの弁明。事故は未曾有の巨大津波が原因であり、津波への備えは国の基準に従ってきたから東電に落ち度はないとの論理一辺倒である。

事故調が長時間の事情聴取

東電は当初から、事故は異常に巨大な天災地変が原因であり、原子力損害賠償法の免責条項の対象になると主張してきた。中間報告はその駄目押しである。当然のことながら事前の対策でも被災状況や事故後の対応でも東電にとって都合の悪い記述は載っていない。

例えば津波の高さは専門家の検証もないまま13メートルと結論づけ、福島第一原発では近隣の海岸より津波が異様に高かったなどと首を傾げたくなる説も唱えている。原発内にいた社外の作業員の証言もあって地震直後に施設内の配管破損が疑われるのに、免責主張が崩れると見てそれには触れず、設備に地震の影響はないの一点張り。原発内の放射線が爆発前からかなり高い値を示したことを書きながら、その理由も書いていない。これまでの主張と整合性の取れることのみ連ねている。

大きな事故が起きれば、通常は捜査当局が現場検証する。だが、福島原発は立ち入り規制され、いわば治外法権状態。捜査当局も現場検証していない。政府の事故調査・検証委員会ですら現場をくまなく調べてはおらず、東電が事故処理に紛れて証拠隠滅したとしても分からない。政府の事故調査委も捜査当局も事故調査をするとなれば東電の担当者に事情聴取するしかない。中間報告書の通りと口裏を合わせられたら、東電の言うままにしか調書はつくれなくなる。

東電はそうタカをくくって、年末に見込まれている政府事故調査委の中間報告書とりまとめを牽制する意図を社内報告に込めているかのようである。事故調査委は東電が免責を言えぬ地震による機器異常にも言及する意向を示している。放射線が強くて東電もすべての機器を実地に調べていないし、事故調査委が現場を検証できるとしても何年も先になる。調べようがない以上、機器異常の可能性には触れるというのが事故調査委の姿勢である。だが、東電は中間報告でそれを否定してみせ、自らに不利な記述は拒否するという傲慢で不遜な態度を示している。

東電は政治力、資金力を背景に原子力ムラを牛耳って原子力関連の学界を手なずけ、自分に都合のよい基準をつくらせてきた。ところが事故が起こると基準のせいにして自らの責任を回避する。過去に地震や津波への対策の不備を指摘されても耳を貸さず、対策を怠ってきた東電の言い逃れを見ると、原発を持たせてよい企業だったのか疑いたくなる。

中間報告発表に合わせたかのように、東電は福島第一原発で事故対応を指揮してきた吉田昌郎所長を交代させた。当初はプライバシーを理由に病名を明らかにせず、放射線被曝との関連も疑われて憶測が飛び交った。後から食道ガンと発表して被曝との関連を否定したが、病気にかこつけた雲隠れという見方は消えない。

東電にとっては中間報告で言い分を明らかにし、あとは政府の事故調査委の報告書を待つだけ。事故調査委の報告書では東電と菅直人前首相との事故時のやりとりが焦点になるから、吉田氏を忙しい前線から離れさせ、口裏合わせに専念させたのかもしれない。吉田所長は事故調査委から20時間に及ぶ事情聴取を受けたとのうわさが流れる。すべてを知る吉田氏の証言は東電の今後にも関わるから、うかつな発言をさせないよう隔離したとの見方もある。

野田政権のパフォーマンス

中間報告が開き直りだとすれば、矛盾を突かれそうなのでさりげなく公表したと思えるのが1~3号機の炉心の解析結果だ。東電の解析によると1号機の炉心はもぬけの殻。ほぼすべての核燃料が圧力容器を突き破って外側にある格納容器の底にたまっているらしい。溶けた核燃料はコンクリートの床をかなり浸食し、配管も損傷して格納容器内の汚染水が流れ出ているとされる。圧力容器から溶け落ちた核燃料は2号機も最大で57%、3号機も最大で63%もあるという。

原発の安全研究に携わる専門家によれば、溶けた核燃料が落ちてコンクリートと相互反応を起こすと、なかなか止められなくなるという。東電と政府は事故を過小に見せかけ、小出しに最悪情報を出してきた。それと地下水流入の多さを考えれば、核燃料が格納容器も突き抜ける「チャイナシンドローム」さえ疑いたくなる。

解析結果通りでも事故の後始末は道のりが極めて険しくなる。大半の核燃料が格納容器に溶け落ちた原発から核燃料を取り出すのは前例がないから、すべては手さぐり。原子力委員会が描いた10年後の核燃料取り出し着手も楽観的すぎるし、廃炉は30年経っても見通しを語れないかもしれない。取り出した核燃料、瓦礫の処分方法、場所もそう簡単に決まるはずがない。

直近でも政府や東電の「冷温停止」宣言はすんなりと信用されない。政府、東電は「冷温停止」の条件として①圧力容器底部の温度が100度以下②放射性物質の放出抑制――の2点を挙げてきた。だが、圧力容器がもぬけの殻なら底部が100度以下でも核燃料が冷えて安定とは言えない。溶け落ちた核燃料が水に浸かっているかは定かでなく、制御下にあるとの判断もつけられないだろう。

政府は年内にも冷温停止、事故収束の宣言をして警戒区域でも汚染の酷くない地域では避難解除をするというシナリオを描いている。それを念頭に東電も細野豪志原発事故担当相も矛盾があっても、格納容器の温度から見て核燃料の冷却は進んでいると言い張っている。

事故原発は再臨界が起きないようホウ酸水を注ぎ込んでいるが、爆発で構造上の不安要因を抱え、注ぎ込んだ海水による腐食の恐れもある。再び大きな地震が襲ったら崩れ落ちた核燃料や応急の冷却装置がどうなるのか予見できない。野田政権は事故処理の前進を印象づけようと、強引なまでに年内の冷温停止宣言に走っている。政治のパフォーマンスだけのために国民を欺き事故収束を見せかける。これが避難解除地域の住民を危険にさらすことにならないよう祈るばかりである。

   

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