安さが魅力だが、イー・モバイルと日本通信がバトル。「技適マーク」で総務省も巻き込まれた。
2011年9月号 BUSINESS
中国の大手通信機器メーカー、華為(ファーウェイ)技術製のスマートフォンの輸入販売をめぐって、日本の通信業者2社がガチンコ勝負、総務省を巻き込む騒動となっている。
一社は携帯電話事業者のイー・モバイル、もう一社はMVNO(仮想移動体通信事業者)の日本通信で、それぞれブランド名を「ポケットWiFi S」(イー・モバイル)、「イデオス」(日本通信)としているが、もとは同機種なのだ。
ファーウェイの日本代理店であるファーウェイ・ジャパン経由で端末を調達したイー・モバイルが、香港のファーウェイ本社から代理店(英eXpansys社)経由で仕入れた日本通信の「イデオス」の販売を中止するよう求めたのが発端。これだけなら、よくある総代理店と並行輸入のトラブルなのだが、電波法の端末認証に絡んで総務省が乗り出す話になってしまった。
あなたの携帯に「技適マーク」が付いているのをご存じか。日本国内で無線機器を利用するには、技術基準適合証明(技適)を受けなければならないのだ。携帯端末が電波法令の技術基準に適合していることを証明する制度で、メーカーなどの申請を受けた登録証明機関(民間企業)が国に代わって端末の試験を実施し証明番号を付与する。証明されたすべての端末には、「技適マーク」と証明番号が印刷、あるいはシール添付されている。今回のトラブルは、日本通信が調達したイデオスの技適証明が違法か否かで争われている。
昨年の12月21日、日本通信はイー・モバイル側にイデオスを販売すると伝えた。約1週間前にポケットWiFiSが先行発売されていたので仁義を切ったつもりだった。イー・モバイルの反応は早かった。その夜、日本通信の三田聖二社長ら3人の幹部を呼び出し、日本通信が調達した6千台のイデオスの販売を中止せよと迫ったのだ。
イー・アクセス(イー・モバイルの運営母体)側はエリック・ガン社長ら幹部3人が出席し、日本通信側が拒否すると、大手量販店の名前を出してイデオスの販売に圧力をかけるかのような発言をしたという。
イー・モバイル側からすると、ファーウェイ・ジャパンという代理店を通して端末を調達しているわけだから「並行もの」、しかも通信会社を自由に選べるSIMロックフリーであるイデオスが市場に投入されるのは面白くなかったのだろう。イー・モバイルとファーウェイ・ジャパンの間で交わされた独占契約も、販売差し止め要求の根拠になっている。
だが、正規品の並行輸入は公正取引委員会がガイドラインで認める正当な経済活動だ。むしろそれを阻害すると独占禁止法に抵触する。日本通信が代理店を通じて輸入するイデオスは、ファーウェイ本社が出荷した正規の端末だ。いや、それどころか、単なる「並行もの」ではなく、日本通信向けにファーウェイ本社が仕様変更までしている。
申し入れをハネつけられたイー・モバイルは、ファーウェイ・ジャパンを使った販売阻止工作に乗り出した。翌日、ファーウェイ・ジャパンから日本通信にイデオスの技適証明取り消し手続きを行う旨の書面が届いた。イデオスの技適はファーウェイ本社ではなく、ファーウェイ・ジャパンが申請したものだった。それは総務省のホームページでも確認できる。つまり「申請した技適を取り下げるので、あなた方の販売する端末は電波法上違法になる」と宣告しようとしたわけだ。
が、これはおかしな話だ。総務省によれば「申請者による技適証明取り下げの手続きは存在しない。取り消しはあくまでも端末が証明内容に適合していないことが判明した場合だけ」だという。
ミスに気づいたのか、ファーウェイ・ジャパンは12月27日、「我々が取得した技適証明のシールを貼った端末を日本通信が勝手に販売するのは違法」という趣旨の書面を日本通信に送った。技適証明の申請者がファーウェイ・ジャパンであったことを盾に、イデオスを違法端末に仕立てる戦略に切り替えたのだろう。
日本通信の三田社長は「我々は技適シールが貼られた状態で端末を調達した。貼った覚えはない」と否定している。イー・モバイルと日本通信の幹部が話し合って1週間も経たないうちのファーウェイ・ジャパンの動きは、イー・モバイルからのプレッシャーがあったのだろう。ファーウェイ・ジャパンにとって、イー・モバイルは端末だけでなく基地局設備なども納入する大の得意先だ。
年が明けてトラブルは総務省に持ち込まれた。イー・モバイル、あるいはファーウェイ・ジャパンが働きかけたと思われる。ちょうどこのタイミングで、三田社長はツイートした。「eMobileの社長ガンさんはHuaweiジャパンを驚かしてideosスマートホンの販売をとめようとしている。どうして違法のて(手)までう(打)たなければいけないのかな、影響ないのに。。。」(原文ママ)と。
本誌の問い合わせにイー・アクセスは「あっち(日本通信)がおかしい」「日本通信の端末は技適証明が通っていなかったと思う。ウヤムヤになったけど……」と答えている。
総務省は両者を呼んでヒアリングをした模様だ。本誌に対し総務省は当初「民間企業のトラブルに関与することはない」と問題の所在すら認めなかったが、最終的には「調査中」を認めた。ただ、どのような調査を行い、結果がいつ出るのかは「一切言えない」ととりつく島もない。現在、問題は「ウヤムヤになった」ままで、イー・モバイルと日本通信の双方が販売を続けている。
俯瞰すると、ポイントは二つに絞られる。まずイー・モバイルが日本通信のイデオスの販売を止めたいなら、ファーウェイ・ジャパン経由でファーウェイ本社に対し日本通信への販売差し止めを訴えればよいだけの話だ。企業間の契約の問題で、総務省まで巻き込んだ違法端末騒動は、ちょっとお門違いではないか。
日本通信のイデオスは、NTTドコモの基地局に接続可能な周波数の追加、日本語フォントの追加、アクセスポイントの設定機能追加、オリジナル色の背面カバーといった日本通信の求めに応じた仕様変更がなされており、ファーウェイ本社が「本気」で作ったもの。当然、技適シールも日本向けにその段階で貼られたであろうことは想像に難くない。
日本向けなのでファーウェイ・ジャパンが申請した技適証明をそのまま利用したのだろうか。ファーウェイ本社の真意が気になるが、中国の商慣習に詳しいコンサルタントは、「中国企業は商売になるなら二股かけたビジネスなんて当たり前。契約でもそれが可能なようにしてあるはず」と言い切る。
総務省もだらしがない。日本通信のイデオスの技適シールを誰が貼ったかが争点なのだが、鍵を握るファーウェイ本社に照会すれば全容解明はたやすいはず。が、その労をとった形跡はない。いずれにしても、スマホが携帯の主流になろうとしている今、国産アンドロイドやiPhoneより安い中国製スマホの上陸に、こう腰の定まらない対応をしていては、監督官庁として情けなかろう。