朝日新聞が「日経追随」の生き残り策

2010年3月号 BUSINESS

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「暗闇のはるか向こうにぼんやりと出口の薄明かりが見えてきた」

朝日新聞社の秋山耿太郎社長は1月4日、東京本社で開いた新年祝賀会でこう挨拶した。だが、その中身は日経追随と縮小均衡にすぎない。

秋山氏の言う「薄明かり」の一番目は広告収入の下げ止まりだ。「昨秋から減収のスピードが鈍り、右肩下がりの一直線からL字型に近い落ち込みに転ずる気配が出てきた」と言うのだが、これは景気刺激策の恩恵でエコカーなどの商品広告が盛り返しているにすぎない。二番目の薄明かりは「年金制度の見直し」と言う。厚生年金は国の年金業務を肩代わりする代行部分と企業独自の基金(厚生年金基金)の2本立てだが、このうち代行部分を国に返上する。だが、その効果は一時的なものだ。年金の主たる運用先である株式相場が持ち直し、「年金の期待運用収益率が昨年よりも改善されるかもしれない」と秋山社長は希望的観測を述べる。

業績は依然、厳しい。09年度上期の営業損益は55億円の赤字(08年度上期は32億円の赤字)を計上。通期では100億円規模の営業赤字が出る見通し。さらに「10年度も赤字が続く見通し」(秋山社長)で、前例のない3年連続の赤字となる。

その対策が日経追随だ。まず電子新聞。「日経が新しいタイプの有料
の電子版事業を春から本格展開するが、その成否を注目している」(秋山社長)としたうえで、同社のウェブサイト「アサヒコム」も有料化する方針を初めて表明。その方式も「課金モデル、会員限定、無料の3層構造」と日経の電子版と全く同じだ。しかし、社内には「経済情報はカネを取れるかもしれないが、事件・事故、政治ニュースで課金できるか」と訝る声がある。

教育事業も日経の後追いだ。日経が経済知識の検定試験「日経TEST」を始めたのを受け、朝日はベネッセコーポレーションと組んで「語彙・読解力検定」を11年春からスタートさせる。入試を控えた高校生や就職を控えた大学生を狙い、朝日が記事データベースを提供し、ベネッセが問題を作る。「入学試験で引用が多い」というブランド力を生かし国語教育で稼ぐ作戦だが、予備校が支配する市場への参入は容易ではない。

日経と唯一違うのは、一等地に保有する地所を活用する不動産事業だが、これも危うい。1月9日には大阪・中之島の大阪本社地区で、再開発ビル「中之島フェスティバルタワー」(東棟)を起工した。地上39階建て、高さ約200メートルの巨大ビルで、12年10月末に竣工する。その西側に18年頃までに同規模の貸しビル(西棟)をもう一棟完成させる。本社部門や音楽ホール以外のスペースには業務ビルや高級ホテルの入居を目論むが、大阪のビル需要は厳寒。おまけに大阪駅北の北ヤードやダイビル跡地などの再開発が目白押しで競合しそうだ。ツインビルの計画をやめて、東棟だけにしてもよさそうだが、それでは約1千億円に上る投資を回収できない。西棟は丸ごと貸しビルで、そこでの家賃収入が再開発の前提だからだ。赤字の不安を抱えたまま走り続けるほかない。

東京・有楽町の旧東京本社跡地(マリオン)からテナントの西武有楽町店が撤退するのも痛手だ。年間約30億円の家賃収入が失われる。「消費不況が深刻化し、次のテナントがすぐに決まるか微妙。決まっても大幅な家賃値下げを要求されるだろう」と専門家は見る。不動産事業は経営の「浮き袋」になりそうもない。

となると、頼りは経費節減だけだ。人員は現状の年5千人体制を12年には4500人へと、2年間で500人削減する。採用抑制だけでは足りず、定年の60歳まで勤務した場合に得られるであろう報酬の5~6割を支払う早期退職を募集する。また、実質的な賃下げを含む給与制度の改定も近く組合に提案する。

東京、大阪、名古屋、西部(福岡)の4本社体制も実質的に東京、大阪の2極に集約。販売店との取引でも、部数を伸ばした店には補助金をはずみ、部数減の店には減らす信賞必罰の仕組みを導入する。ほとんどの地域で部数が落ち続けている現状では、事実上の補助金削減となる。秋山社長は年頭挨拶で「必ずや今年度中にトンネルの出口が見つかる。業界の先端を走り続ける」と宣言したが、羅針盤に狂いはないか。

   

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