「内輪の論理」に埋没自民党に決別宣言

田村 耕太郎氏 氏
自民党参議院議員

2010年1月号 POLITICS [インタビュー]
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田村 耕太郎氏

田村 耕太郎氏(たむら こうたろう)

自民党参議院議員

1963年鳥取県出身(46歳)。早大卒、慶大院修了。89年山一証券入社。米デューク大で法律学修士号、米エール大で経済学修士号を取得。98年参院選、2000年衆院選に無所属で挑むも落選。02年参院鳥取選挙区補選で初当選。04年参院選で再選。06年内閣府大臣政務官。政界指折りの国際派、金融政策通である。

写真/小嶋三樹

――ドバイ・ショックをどう見ますか。

田村 世界経済の緩やかな回復は資源や人口が豊かなBRICsや中東諸国の成長が引っ張ってきました。その新興国の経済基盤がいかに脆弱か、世界は再認識することになりました。リーマン・ショック以降、リスクがありすぎて、みな鈍感になっていました。

――新たな世界経済危機に波及しませんか。

田村 中東の金融不安は限定的との見方もありますが、長いトレンドで見たら何かの始まりかもしれない。10億を超える人口大国の中国やインドはもっと大きなリスクを抱えています。ドバイの異変は世界経済で起こっていることの周辺の現象にすぎないが、もしかしたら、世界経済が衰退期に入る兆候かもしれない。もう一つ何かのイベントが起こったら、とどめになるかもしれません。

危ういのは米国経済です。オバマ大統領が登場して世界の期待は高まったが、根本的な問題は何も解決していません。失業率が10%を超え、消費も低迷、ローカルバンクの倒産が続出し、商業用不動産の値下がりに歯止めがかからない。米国の金融市場改革は手つかずで、米国内の金融システムがおかしくなるのはこれからです。実は今こそ日本がイニシアチブをとるチャンス。新興国は米英の短期的なさや取りゲームの被害者です。銀行の自己資本規制であれ、市場の検査・監督であれ、日本が新興国を取り込んでルール作りをリードすべきです。持続的な社会進歩のために、中長期的な視点で産業投資を行う日本モデルに新興国は魅力を感じています。

今や新興国のGDPは世界の3割に迫り、我が国の4倍ぐらい。彼らは日本の技術やサービス、資金、コンテンツに期待しています。ところが、これらをPRして世界に売り出す作業が、我が国の政官財に欠けています。

野党慣れしていない自民党の窮地

――民主党政権の経済の舵取りは?

田村 不安ですね。まず、マクロ経済の視点がまったくない。民主党は、日本は成熟経済だから成長しなくていいと言っています。ところが、日本より早く成熟した欧米は今でも堅実に成長しています。日本経済はこの15年間ほぼゼロ成長で、世界GDPに占めるシェアは17%から7%に落ちました。一方、世界経済は同時期に倍以上に成長し、先進国でもGDPは平均で1.8倍になっています。彼らがよく引き合いに出す北欧は、高齢化が進み社会保障負担が重い。それは日本の将来像ですが、スウェーデンもノルウェーも徹底的な成長戦略によって国際競争力を強めています。

ところが民主党はグローバルな視点がない。新政権はこの国の経済を止まった経済、閉じた経済と見ているのではないか。15年間の停滞は我々自民党の責任ですが、それを承知で政権に就いたのですから、最後のボタンを押してはいけない。

――財政再建目標もありませんね。

田村 日本には1400兆円を超える個人金融資産があると言いますが、ネットの負債が約380兆円あり、純資産は約1050兆円しかない。現在の公的債務残高は約960兆円ですから、あと数回赤字国債を増発したら、個人金融資産を上回ることになります。海外でファイナンスをするには、今のような97%が国内消化のローカルルールの金利では済まされない。世界の高名な投資家は、日本の財政破綻に賭け始めています。このまま行けば、金利暴騰、大増税、スーパー円安、大収縮経済がセットでやってくるでしょう。民主党に財政再建目標の提示を求め、こちらからもプランを出していきます。

――自民党の支持率が低迷しています。

田村 与党慣れしていない民主党と野党慣れしていない自民党、どちらが窮地かと言えば自民党です。ある事業再生のプロから「高く明快なビジョンと全社員の完全共有」「事実をベースとした徹底的な現状認識」「“誰が正しいかではなく、何が正しいか”の議論」などが、企業復活の条件と伺いましたが、今の党本部にはすべてが欠けています。党執行部は「文句を言わず地元を回れ」と号令するが、国民のための政治と言うなら、早急に何のために何をする政党なのか、もう一度明快に国民に訴えるべきです。そうしないと、いくら候補者や党員があいさつ回りをしても国民の心に響かない。敵失待ちでは支持率を回復できっこありません。

――自民党は来夏の参院選に、先の総選挙で落選した長老らを擁立する方針のようです。

田村 自民党は内輪の論理に埋没しています。党本部は早く徹底的に国民の声を聞くべきです。そのためにはポリティカル・マーケティングを行うのが手っ取り早い。単なる選挙の情勢調査ではなく、国民のための政治を実行するツールとして正確な世論調査を行うのです。国民の声を数字で正確に把握し、問題、課題、チャンスをオープンに議論する。その上で理念と政策を立てて、議員と党員でそれを共有する。そういう真摯な姿勢を見せることが支持率アップにつながると思います。

従来、自民党の新人と言えば「世襲」か「官僚」か「地方議員」か「議員秘書」が相場でした。これからは政策競争で与党を圧倒する経営的センスのある人を擁立すべきです。12月初めに開催した「新世代保守の会」のゲストは楽天の三木谷浩史社長。私は経営者こそ政治家になるべきだと思う。「三木谷さん、どうですか?」とお誘いしたほどです(笑)。

――現体制に失望した若手議員の中には、参院選に惨敗して、長老が引退した後に党再生のチャンスが訪れると言う人もいます。

政党は政治の道具にすぎない

田村 私は参院自民党の総会や両院議員懇談会で「参院選は本当に厳しい戦いなので、一刻も早く勝利戦略を見せてほしい」「仮に自分が勝ちあがったとしても全体が大負けしていたらバッジをつけている意味はない」と苦言を呈してきましたが、役員の方々から完全にスルーされました。戦略はないのです。もう一度惨敗したら自民党は終わりです。とはいっても、政党の盛衰など、国民にはどうでもいいことです。11月下旬にロシアの絶対的与党「統一ロシア」の党大会に招かれ、メドベージェフ大統領の演説を聞きました。曰く「統一ロシアの主導的地位は終身の特権ではなく、日々の努力により得られるものだ。経済を改革できなければ、その地位を維持できない。国民は党に具体的成果を求めているのだ……政党は、与党だろうが、野党だろうが、政治の道具にすぎない。政治は国民のためにある」と。私は同世代の大統領のオーラに感動しました。私は無所属で国政選挙に挑み、3度目に初めて当選させていただきました。国家、国民のために仕事がしたい、これが私の初心です。政党の内輪の論理に煩わされたくない。私は原点に返ります。

   

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